私はこうして会社を辞めました(34)―偉大な草原小国モンゴル

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(敬称略)

22658偽モンゴル人、モンゴルにて

 1997年夏には、カナダのロッキー山脈での休暇に続き、ハワイのマウイ島にも足を伸ばした。そして、中国に戻るとすぐにモンゴル出張。

 私が在職していたロイター中国の管轄範囲は、中国大陸とモンゴル、北朝鮮であった。97年夏、大陸の業務が順調に伸びているので、モンゴルまで足を伸ばし、市場調査をすることにした。

 ウランバートルまでは、北京から飛行機でわずか2時間程度。最近、朝青龍や白鵬などモンゴル出身の力士で、モンゴルも日本人にとって非常に身近な存在になったが、97年当時のモンゴルはまだまだ近くて遠い国だった。

22658_297年夏、モンゴル南ゴビの大草原

 ウランバートル市内には十数社の日本企業が事務所を設けていた。その多くは、大手商社のエネルギー部門だった。訪問してみると、皆大歓迎してくれた。モンゴルの駐在生活は非常に退屈で、ウランバートルにいる日本人の唯一の楽しみは釣り。モンゴルに大河があり、川魚なら信じられないほど大物が釣れると教えてくれた。

 ウランバートル出張を終えると、週末を利用して、南ゴビに飛ぶことにした。モンゴルといえば、あの大草原、そして遊牧民の住むゲルに泊まってみたかったのだった。

 早朝の便で、ウランバートルを飛び立つ。飛行機は20人ほど乗りのロシア製プロペラ機。1時間後、朝日を浴びて着陸するが、着いた街は、滑走路らしい滑走路がない、空港ターミナルは兼食堂の小屋、街もない、道路もない、もちろん信号もない・・・あるのは、草原、草原、草原。ジープに乗って道路のないところをひたすら突っ走っていると、何ら道標もないことに気付く。遊牧民族の逞しさを改めて思い知らされる。

22658_3草原にもこんな砂丘がある

 泊まるゲルは、観光客用の綺麗なものだった。シャワー、トイレは共同、シャワーの熱い湯が出るのが夜の10時まで。

 大草原でやることは、乗馬、ドライブ、日光浴、読書、私の場合はプラス葉巻。

 そして、夜。

 「満天の星空」という言葉は、まさに、この大草原のために作られた。いや、適切ではない。星が多すぎて、つながった星は星雲といよりも、白い湯気になっている。星空を見上げていると、天の川に魂が吸い取られるような感覚に陥る。

 モンゴルという国は実に面白い。中国とロシアという二つの大国にはさまれて、海にも面しておらず、港もない。不利な条件だらけのなかでも逞しく生き延び、そして成長を続けるモンゴルは、それなりの素質と武器を持っているのだ。あるセミナーで、合弁企業の話になると、私がモンゴルを例に引っ張り出した。中国とロシア、モンゴルの三つの国が合弁を組むとすれば、中ロがそれぞれ49%の株、モンゴルがわずか2%。そして、株主決議になると、モンゴルの2%が決定的で、その重要性は言うまでもない。

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