「愛に心なし」偽りの愛も消える日、愚民の簡体字と識者の繁体字

 赤く塗りつぶしても、心無き「爱」は「愛」じゃない!

 昨日書いたブログ「マネーの金色が貧困の暗黒に輝く日、悲哀の中国リッチ物語」は、多くの読者にとってかなりショッキング的な内容だったと思うが、では、このようなことがなぜ中国で起きるのだろうか、きっと大変関心が持たれることだろう。それに関連して、いくつか側面から考えてみよう。

 中国語は、漢字の言語である。漢字には、「繁体字」と「簡体字」がある。「繁体字」は「正体字」ともいい、中国数千年の文化から生まれた正統派クラシック漢字であった。しかし、中国建国後は、この「繁体字」を廃止し、「簡体字」を作り出した。

 「愛」という漢字は、「心」が抜かれて、心なしの「爱」となった。

 「親」という漢字は、「見」が抜かれて、面倒を見ない親不孝の「亲」となった。

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 伝統文化というものは、思いつきでいじくってはならないものである。心なしの「爱」は、偽りの「愛」である。偽りの「愛」ならまだしも、偽りの「愛」さえなくなれば、経済成長の意味はどこにあるかを問いかけたくなる。

 昨今の中国社会は、経済成長一辺倒である。経済成長といえば、「作り出す」ことであり、「作り出す」ことは、「破壊」を前提にする。特に文化。「文化?文化は、一斤にいくら?」と反問する中国人もいるくらい悲しい。古来の中華文化を軽視することは、さかのぼって建国当初の漢字変革に始まっていた。「愛」の「心」が抜かれ、心なしの「爱」とされたとき、今日の悲劇の種がすでに撒かれたのだった。

 妙なことがある。人にやらせることを、自分はやらない。

23298毛沢東は繁体字

 中華人民共和国建国後、政府が一連の「文字改革」政策によって「簡体字」を普及させた。しかし、妙なことに、建国から今日にいたるまで、中国のリーダーたちがなぜか繁体字を愛用し続けてきた。毛沢東、周恩来、鄧小平から江沢民まで、彼らの墨跡を見ると、ほとんど繁体字の達筆だった。おかしいではないか、簡体字国家の中国で、政府首脳が自分たちだけ繁体字を使っているのはなぜ?

 中国建国後に、大多数の労働人民の識字率が低く、早く漢字を覚えてもらうために簡体字を発明したようだ。簡体字政策の主旨は良いが、繁体字の廃止に伴う副作用はあまり考えていないようだ。以来、一般労働人民に普及された「簡体字」に対して、偉い人たちが自分たちの教養や学識、ステータスを誇示するかのように、労働人民と一線を画した「繁体字」を使っているように思える。それ以外に、説明できる理由があれば、是非聞きたい。

23298_2鄧小平も繁体字

 偉い人たちが自分の行動で「繁体字」の良さを認めている。中国語の漢字は、象形文字である。象形文字である故に、その一筆一画に歴史が刻まれており、世界一美しい文字なのである。勝手にそれを崩し、簡略化すると、何千年もの文化遺産が無残な形にされてしまう。とても痛々しい。

 昨年と今年の人民代表大会と政治協商会議では、繁体字復帰を提案する委員が現れた。大きな拍手を送りたい。

 政界だけでなく、学界でも大きな波紋が広がっている。武漢大学国学学者・中央テレビ「百家論壇」のコメンテーター、李敬一氏も公の場で繁体字復帰を訴えた。中国の著名経済学者・于軾氏は、コンピューター化した今では繁体字が書きにくいという理由は存在しないと主張する。昨年3月に、『中華文学選刊』誌執行編集長・王干氏がそのブログで、「簡体字は、漢字の山賊版だ」と公言した。

23298_3江沢民もまたまた繁体字、けれど、中国は簡体字の国だが?

 繁体字と簡体字について、中国のSohu.comが「民意調査」をしたところで、繁体字賛成派25%、反対派75%という統計データが出ている。2:8法則が見事に適用した。価値観はそれぞれだが、私が人材を採用するのなら、間違いなく2割から取ることにする。

 「繁体字復帰・簡体字廃止」派の陣頭に立つ人物は、著名国学者の李羨林氏である。99歳高齢の李氏は、中国建国初期に発足された「文字改革研究委員会」の23名の委員の中、唯一健在する委員である。簡体字を作り出した人間が、いま、簡体字廃止、繁体字復帰を叫んでいることは、何を意味するか?

 「簡体字」は、中国文化史上の創造か破壊かは、歴史がいずれ結論付けするだろう。

 私は、こよなく中国語の繁体字を愛している。なぜなら、そもそも「簡体字」が出来るまで、「繁体字」と言う名は存在せず、それこそが偉大な中国固有文化の正統派「漢字」なのであった。

 さて、みなさん、貴方は、繁体字を使うか?それとも簡体字?