マレーシアの定年退職者移住には、終止符

 マレーシアはもう、単純なシルバー移住を歓迎しない。資本・事業移住にシフトする。

 私が予想し、そして提案(マレーシア移住制度の複線化提案=本記事末尾に参考再掲、関係当局にも提出済み)した通り、マレーシアはTwo-Tier2階建式の新MM2H制度を実施する方向だ。9月24日に行われたハムザ・ザイヌディン内務大臣の記者会見である程度状況が明らかになった。

 2階建の1階は、既存MM2H資格条件を維持する下級移住者。2階は新条件適用のプレミアムつき上級移住者。

 2階の上級者は、まとまった資金をマレーシアに持ち込んで投資したり、事業を起こしたり、ビジネスを営むことを前提とする。1階の下級者が持ち込んだ少額な資金は、生活資金であるのに対して、2階の上級者が持ち込んだ高額な資金は、事業・投資資金になる。お金の「量」「質」がともに異なる。

 ザイヌディン内務大臣が記者会見でこう明言した(主旨抄訳)――。

 「今までのMM2H保有者は、マレーシアに少ないお金をもってきて、大した貢献もしていないのに、政府補助のつくガソリンや公共料金といったメリットを享受してきた。マレーシアは持ち出しになっていて、それでは釣り合わないし、不合理で不公平だ。是正しなければならない。これからは、マレーシアに投資や事業で貢献してくれる移住者を迎え入れ、彼たちにプレミアムを与える」

 具体的な言及はないものの、いわゆる「プレミアム」は、将来的に永住権も視野に入れたい。要するに下級移住者との差別化である。この辺は、日本的な感覚を捨てよう。海外では、上下階級(層)の区別は当たり前だ。善悪の問題ではない。

 2階建の1階にある既存のMM2H保有者に対しては、元々この際新条件適用で不合格者を追い出すつもりだったが、人道的立場もあってか、とりあえず現状維持をよしとすると内務大臣は言っているが、具体的な条件の言及はなかった。それが暫定の経過措置であるかどうか、その場合は期限をいつまでとするか、将来新条件への強制的適用はあり得るか、MM2Hメイン保持者が死亡・離婚した場合家族の処遇はどうするか、などなど、いずれも明らかになっていない。

 ただ1つだけ、国としては戦略的に、この1階の下級層を徐々に減らしていき、いつか自然消滅させ、フェードアウトを狙っていることは、間違いないだろう。

 と同時に、2階の上級者層を、少量ながらも増やしていくとしている。「量」の変化で「質」の変化を引き起こす。国家戦略としては正しい。詳しくはこれからのアップデートも上乗せして、10月17日の『【Webセミナー】マレーシア移住、もうダメになったのか?』で話したいと思う。

 最後に、マレーシア移住について、現段階の結論を言おう。

 ① 定年退職後にマレーシアで年金生活を送るオプションは、もうない。ただし、資産家でなおかつ継続的高収入のある方は除外。

 ② タイもマレーシアと競争し、類似の体制を構築中。定年後の年金移住先リストから、マレーシアとタイは消えるだろう。アジアなら、フィリピンやベトナム等を検討すべきだろう。

 ③ 現役時代から、マレーシアに投資・創業し、事業基盤を築き上げ、将来も引き続き居住基盤とする人には、これから門戸が開かれるだろう。

 私自身は8年前に、「職住分離」という趣旨で、マレーシアに移住した。昨今、リモートワークの普及に伴い、「職住」の物理的位置関係を語るのは、ナンセンスになりつつなる。

 さらに、現時のマレーシア移住政策の変換をみて、私自身は、今後、マレーシアを本格的な居住・事業の複合メインベースとして捉え、様々な展開をしていきたいと思う。

 私の主宰する「マレーシア移住の会」では、これまではあまり実質的な活動もなかったが、今後、日本人・企業のマレーシアでの事業構築における情報提供・実務支援といった、私の得意分野になれば、大いに活躍できることになろう。


【再掲】MM2HとMM1Hの複線化、マレーシア移住制度へ提案
2021年8月25日

 マレーシア移住ビザMM2Hの条件改定(大幅引き上げ)について、関係組織経由で当局へ以下趣旨の意見・提案を提出した――。

 マレーシア国益に合致し、合理的な制度改正を尊重し、支持する。このたびのMM2H条件は大幅に引き上げられたが、それが永住権(PR)付与を伴うものであれば、合理的であり、受け入れられるものである。従って、以下提案する。

 (1) 制度の複線化(Twin Tier System)、以下2つのTierに分ける。
 Basic Tier =MM2H、セカンドホームの長期滞在型、旧条件(現状MM2Hの条件)を維持する。
 Premium Tier=MM1H、ファーストホームの永住(PR)型、新条件を適用する。

 (2) Basic TierのMM2H既存保有者には、Basic Tierの地位を保証する(不遡及原則)。一方、自らの意思により、新条件適用で、Premium Tierへのアップグレードを申請することができる。なお、Basic→Premiumを可とするが、逆を不可とする一方通行型とする。

 (3) 2021年10月以降の新規申請者には、マレーシア政府は以下いずれかの選択を行う。
 ① 単線(Single Tier)として、Premium Tier申請のみ受理する。
 ② 複線(Twin Tiers)として、Premium Tier申請とBasic Tier申請を同時受理する。両Tierの受け入れ比率は、当局が状況次第で柔軟に調整する。


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