「監査報告が来ました。私はシロ!」、電話口には興奮気味で、トーンが高くなっている声。
「有名欧州ブランドの中国地区総経理解雇紛争(2009-9-29)」で書いた総経理のMさんだった。
賞与も入れると、年俸は100万元(1400万円)を超える。中国地区従業員200名を率いる最高経営責任者が、欧州本社から解雇される。理由は、内部統制上の欠陥。従業員の賞与の税務処理に、改正税法に合致しない部分その他会計処理上の不当があって、総経理の管理責任を問われ、引責辞任を求められている。
「これから、大手会計事務所に中国現地法人と全支店の全面監査を依頼する。そこで、あなたの問題の違法性が指摘されれば、解雇になる。それよりも、いまなら、辞表を出せば、波風を立てずに問題解決できる。次の就職先からレファレンス(訳注:企業間人事情報の照会)もあるだろう。懲戒解雇と自己都合の辞職とは天と地の差、あなたの将来を考えて決断してほしい」
M総経理は、アジア地域の上司からこう言われ、「どうすれば、良いんですか?」と何回も聞いてきた。
「何もしなければ良い」、私からは何回も同じ回答をしている。
「でも、何かしないとダメでしょう?」
「何もしないでください。ただ、通常通り毎日出勤して、仕事を真面目にやってください」
「えっ?何かすることはないんでしょうか?」
「ですから、あなたがいますることは、『何もしない』ことです」
「はい~」、私の少し苛立った声を感じたのか、M総経理は、これ以上何も言わなかった。
法律上、「作為」と「不作為」という二つの言葉がある。「どうすればいいのか」、通常、顧客はコンサルタントや弁護士に「作為」の内容を尋ねるのだが、そこで、いきなり「不作為」を提示されても、さぞかし戸惑ってしまうだろう。
それを見て、私が一言を補足した。「あっ、そうだ。することもありますよ。美味しいものを食べて、コンサートでも聴いて、有給が残っていたら、ハワイのビーチにでも行って、ゆっくり寛いでください」
「えっ?」、M総経理がますます戸惑ってしまった。
結果的に、何もしないこと、「不作為」が正解だった。
なぜだろうか?次の続編で・・・。