監査で戦え!総経理解雇事件<続報2>

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 「監査報告で、もし、クロになったら、懲戒解雇になる、サラリーマン人生の終わりだ」、これは、M総経理が一番心配しているところだろう。しかも、「X大事務所」の監査法人が会社にやってくる。

 まったく、心配に及ばないと、私が考えている理由は以下だ。

 まず、監査会社から「クロ」判定の可能性が低い。よほどずさんな状況でなければ、会計税務上の違法性を、監査法人が明確に指摘することはそう多くない。「違法性」を指摘するのに責任が伴うわけで、特に世界X大事務所なら、余計慎重だろう。

 次に、仮に、監査調書や報告書でM総経理管轄下の会計処理に「違法性が認められた」とクロ認定されても、裁判という手が残っている。「違法」か「合法」を判断する権力を持っているのが、裁判所であって、監査法人ではない。裁判所で争うことができる。一言で言うと、「監査報告書は判決文ではない。せいぜい裁判の証拠にしかならない」

 最後、最悪の場合、裁判所でも「クロ」の判決が出た場合はどうだろう。M総経理個人的に、会社の金を不正使用でもしたら話は別だが、ただ業務上の過失(会社への加害意図がない)だけで懲戒解雇対象になるのか、労働契約や就業規則を吟味する必要があるだろう。日本なら、総経理クラスの管理職は、一般社員と違って、忠実義務のほか善管義務も問われるだろうが、中国法の場合、総経理でも給料をもらう限り、労働者であって、一般従業員と類似の処理となる。労働者保護一辺倒の中国法は、M総経理の安全を守る堅牢な壁となる。

 そして、もう一つ。脱税疑惑など法令順守上の問題が判明された場合、会社法人としての責任は逃れない。もちろん、M総経理の上司も、「わしは知らん」と言えないだろう。

 だから、私から見れば、監査云々はM総経理への心理作戦。どうやら、会社がM総経理のクビを切りたい意図だけは明白だ。

 「会計上の瑕疵を、すぐに穴埋めしましょうか、修正申告とかで・・・」、M総経理は真面目な人だ。

 「いまは、絶対にやらないでください。会計帳簿にタッチしないでください。少しでも修正申告したら、総経理、あなた自ら非を認めることになります。監査をやっているのだから、やらせればいい、結果を見てから、考えても遅くありません」、私は、何回も念を押した。
・・・
 そして、監査結果が一昨日出た。–「・・・この種の会計税務処理はある程度経営上のリスクが生じる場合もある・・・」と、概ねこのような表現だそうだ。

 これは、中国でいえば、ほぼ完全「シロ」に近い判定だ。①リスクが伴わない経営は、あるのか?総経理は職責上むしろ、リスクを取るためのポストだ。②「リスクが生じる場合がある」という表現は、さらにリスク発生の不特定性を強調し、発生率が高くないことを示唆しているのではないか・・・

 ここまでは、完勝だ。何もやらない、「不作為」が正しかった。そして、監査報告が出た翌日に、M総経理は、上司に呼び出された・・・

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