「やっぱり、上海が良い」。同じ団地に住む日本人駐在員の帰国が相次ぐなかで、上海駐在に未練を残す人が多いようだ。
「今度こそ、帰国の辞令が出たら、会社を辞めてでも中国に残る」。私の知り合いの中には、このような「過激派」もいる。ところが、しばらく連絡が途絶えたかと思ったら、別の友人から「そういえば、○○さんが帰国しちゃったよ」と知らされたりする。
40、50代のサラリーマンは、家族を養う責任があるので、やたら会社を辞めるやら独立起業やら言っていられない。といっても、20、30代の若い人から、「中国で起業したい」という相談を受けても、私は基本的に、「会社は下手に辞めない方がいいよ。この時代、職があるだけでありがたい。中国で失敗したら、逃げ道もなくなるよ」とリスクをまず、説明する。
これを聞くと、「そうですね、リスクありますね」と顔が曇り出すと、私は勢いに乗って、「そうでしょう。しばらく様子を見ましょうよ」と本格的な「止め」モードに入る。
私自身も何を隠そう、独立の大志を持って会社を辞めたわけではない。私は社内で上司との関係が完全に崩れて、崖っぷちに追いやられて、しかも、酔った勢いで、会社を辞めると言い出したのだった。それが翌日、酔いが少し覚めると、鳥肌が立ち、ブルブル震えるほど怖い思いをしたのだった。
偉そうなことは言えない。思い出せば、独立してからも、失敗はたくさんした。辛酸はたくさん嘗めた。すべての保障を失った時の恐怖もたくさん覚えた。少なくとも、私は大きな決心で会社を辞めた強い人ではなかった。
けれど、一点だけ――。人間は生きるか死ぬかというときになると、一気に強くなるものだ。私がコンサル現場で特に最近、研修で中堅幹部たちに教え込んでいるのは、「サバイバル力」である。
独立起業の相談は結構だが、どちらかというと、辞表を出してから、私のところに来てほしい。私から「できれば会社を辞めないほうがいい」と言えないからだ。