私の上海からクアラルンプールへの移住、その経緯と理由は?

 私は今月(2013年9月)26日に、創業して13年間も暮らした上海を離れ、マレーシアのクアラルンプールに居を移す。

 「立花さんの移住は、みんなに大きなショックです」。複数の顧客企業からこのような声が上がっている。当社エリス・コンサルティングの中国事業は従来通りで、私自身も毎月の定例出張で1週間から半月上海や北京などに滞在し、業務を行う。当社としてはまったく撤退する計画はないと、私が繰り返し説明しても、恐らく私の移住からもたらされるインパクトは払拭されることはないだろう。この点について、よく分かっている。

 私は中国で創業したのは2000年。その時点では、中国で事業をやってもいずれこの国を去ると、これだけは明確なビジョンをもっていたし、中国で骨を埋めるようなことはまったく考えていない。私はこの国が好きではない。ビジネスは価値最大化できる地で行うもので、住むのは好きな場所だ。両者は必ずしもイコールではない。少しドライだろうが、私はこう考えていた。

 その気持ちは変わることなく、むしろここ数年強くなる一方だ。中国起業の翌々年である2002年あたりから、私は移住候補先の選定に入り、視察も始めた。以前訪問したことのあるカナダやスペイン、オーストラリア、ニュージーランドに加え、ハワイも通算3回通った。最終的に、相性が合わない欧米系を排除し、アジア諸国に絞り精査を始めた。対象国は、台湾、フィリピン、タイ、マレーシア、バリ島、シンガポール、日本(北海道・沖縄)。

 20項目以上の評価で総合得点が一番高かった台湾、タイとマレーシアが最終候補に残った。台湾は何と言っても中国語というメリットがあったが、自然災害や物価、政治的不安(中国による統合)で割愛した。最後、タイとマレーシアの決勝戦になり、タイの場合、言葉の問題、外国人による不動産所有権の問題、そしてやはり政治的不安が目立った。

 マレーシアは、自然災害の少なさ、政治の安定性、法治社会、インフラ、物価、言語(英語と中国語)、国民性、成長のポテンシャル、そして移住の法的ステータスなど各方面から見て平均的高得点が付けられ、永住の地として選ばれたのだった。

 中国の話に戻そう。昨年2012年新年過ぎてから、私は突然ある種不吉な予感がした。中国の経済はあまり長く持たないのではないかと。せいぜい5年くらいかな。もちろん、その予感はいろんな事実や現象などの根拠に裏付けられている。2月、家族会議の結論、マレーシア移住のスケジュールを繰り上げることになった。7月、マレーシアへの移住ビザMM2Hを取得。8月からは本格的な移住準備に取り掛かった。

 そして、9月。私の悪い予感の一部が当たった。反日デモ、尖閣諸島紛争などで日中関係が冷え切った。ただ、私が一番懸念しているのは、日中関係ではなく、中国の経済と政治の不安要素だった。この考えは今でも変わらない。

 中国の経済成長は数字的には凄い。誰もが圧倒される。世界の奇跡ともいえるだろうが、ただ中身を見るとがっかりする。一言でいえば、その成長は多くの価値創出が伴う成長ではないのである。市場経済と名付けても、国や行政はいたるところに介入し、公権力によって多くの利益を手に入れ、民間企業と富を奪い合っている。権力が一種の資本となり、そこで多くの利益を生み出す仕組みは紛れもなく歪んだ市場経済であって、いやもはや市場経済とは到底いえない代物だ。

 もっとも、懸念すべきは多くの中国人が汗水たらして富を得るよりも、一夜にして財をなすことにしか興味を示さなくなったことだ。不動産や株から、芸術品やビンテージワインまで、投資話に飛びつく輩。このようなバブル経済が長続きできたら、世の中はとっくに富で溢れ返っていることだろう。残念ながら、こんな「中国夢」は存在し得ないのである。

 誰よりも、これを証明しているのは、中国人自身である。資産をどんどん海外に送り出しているのは中国人、海外に行って外国籍を取っているのも中国人。中国のことを一番信用していないのは中国人。自国民にも信用されない国を信用できますか。

 外国企業が撤退し始めた。当たり前のことだ。香港の大富豪で、世界的にも有数の華人資産家として知られる李嘉誠氏がこのところ、香港や中国本土に持つ傘下企業の資産を投げ売りしている。近年、香港市民の政治化の傾向が強まり、デモが多発し、企業経営に多大な影響が出るようになった。こうした状況のもと、資産を投げ売りすることによって政治的リスクを減らす、これは企業家が取りうる選択肢であろう。

 中国から東南アジアへのシフト、これは昨今もっともホットな話題である。だが、こぞって無差別のシフトではないはずだ。中国市場はまだ大きな市場であって、たとえ深刻な危機に瀕しても全滅することはありえないし、ニッチもたくさんある。適者生存、適所生存は不滅の法則である。むしろこれまで日本企業が中国に熱を上げすぎたところ、いまはその是正や調整の好機が訪れたのである。

 私としても、クアラルンプールに居を移し、もっとアジア全域的(広域的)、俯瞰的な視野をもって日本企業の経営戦略や事業運営に対する提案力を養成したい、という自己啓発的な部分も相当含まれている。もちろん、13年間中国で蓄積された、特に精神的な疲労が相当なものでそれを早い段階で癒すためにも、南国の太陽ほど魅力的なものはない。心と魂の洗濯をしたい。

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コメント: 私の上海からクアラルンプールへの移住、その経緯と理由は?

  1. 7年も前に中国経済の先行き不安を見通し、マレーシア移住を決断した先見性に敬意を表します。今度のコロナ危機を機に多くの日本企業が迅速に 中国からの脱出を果たすことを念じています。

    1.  無暗な脱出を推奨しているわけではありませんが、世界が変わりましたので、適合性を見直して、脱出すべき者は脱出しましょう。

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