【世界経済評論IMPACT】オランダにも、チューリップ咲かない日がやってくる

 3月下旬の上海出張。季節柄よろしく、上海の街頭は美しい。春の到来を謳歌するように、一面と咲き乱れる花々。そのなかでも一際目立つのは、チューリップ。

上海の街頭が美しい

 チューリップといえば、オランダ。オランダがチューリップで有名な理由は、17世紀に「チューリップ・バブル」と呼ばれる投機バブルが起き、その後も栽培と貿易が盛んに行われたためだと言われている。オランダは歴史上、ビジネスに熱心な貿易大国である。

 今やチューリップと並んで、オランダが世界で有名な企業をもっている。それは半導体製造装置メーカーのASML。しかし、その製品は、アメリカの命令で中国向けの輸出が厳しく制限されている。ASMLにとって第2の市場である中国との取引禁止は、死活問題まで行かなくとも、大きな損害を蒙る。

 対中輸出の中止が国策や経済的利益に反するにもかかわらず、オランダは西側の一員として、アメリカに従わざるを得ない。一方、中国は半導体技術の単独開発を急ピッチで進めている。5年後や10年後、中国はいずれ自前の半導体サプライチェーンを持った時点で、それこそASMLにとって死活問題だ。ASMLが安価の中国製に勝てるはずがない。

 かつての日本やソ連同様、アメリカは世界一の地位を脅かされた時点で、二番手を叩き潰す。負けそうになったら、「競争」「闘争」に変わる。名付けて「国家安全保障」、なんでも安保を理由に資本主義の市場経済メカニズムまで抹殺するのがアメリカである。

 上海街頭に咲くチューリップを眺めていると、ふと思いつく。アメリカにとって必要があれば、チューリップを国家安保への脅威として花産業を規制することもできよう。

 オランダのルッテ首相は3月27日、中国訪問し北京で習近平と会談した。半導体解禁をめぐる協議ではないかと一部のメディアが報じているが、私はそう思わない。ルッテ氏は、同国史上最長となった任期を終えるにあたって、レガシーづくりの一環としてのメッセージ発信にすぎない――。「貿易国家のオランダにとっての王道は、純粋な貿易であるべきだ」と。

 チューリップは季節がくれば、黙っても咲くが、国家の栄枯盛衰はそう簡単なものではない。

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