素朴な美食と複雑な贈答品、中秋月餅雑想雑談

 中秋の名月。といえば、月見団子ではなく、月餅だ。中国だけでなく、私が住むマレーシアも華人社会では、月餅の贈答が盛んである。

 正直私は個人的に、食の嗜好として月餅が好みではない。正確に言うと、市中一般流通している贈答用の甘系月餅が好きではないが、日本人に馴染みのない「鮮肉月餅」なら好んで食べる。

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 「鮮肉月餅」とは、生煎包(煎り饅頭、注:日本では多く「焼き小籠包」と訳されているが、それは誤訳だ。小籠包ではない)と同じような大型フライパンで煎り上げる。中身はもちろん肉である。

 熱々の鮮肉月餅。パリパリサクサクの皮に香ばしい肉汁がしみこむ瞬間に、頬張る。旨いも何も言葉が出ないほど至福のひと時である。上海では国営系の老舗レストランが鮮肉月餅を売り出すと、いつも長蛇の列。

 ただ、鮮肉月餅はあくまでも熱いうちに楽しむ食であり、日持ちもしないし、贈答用に向いていない。であれば、月餅贈答名目の賄賂に悪用されることもないだろうから、ある意味で鮮肉月餅は洗練されていないだけに、複雑な政治的成分が含まれず、素朴な季節の味といえるのかもしれない。