難しいことを簡単にする、簡単なことを難しくする

 難しいことを簡単にする。簡単なことを難しくする。

 世の中、この2種類の商売がある。後者は大体、簡単なことを難しくしてから、再び簡単に戻すということで似非付加価値を出して稼ぐのである。ただそれは必ずしも悪徳の確信犯というわけではない。無意識に難しいことと認知していた場合も多々ある。

 私の仕事は、法律が多く絡んでいる。法律といえば難しいという先入観がある。けれど、必ずしもそうとは限らない。もちろん法律家として法律そのものを研究し、とことん掘り下げようとすると、それは大変難しい世界になる。他方、企業法務という分野では、法律が経営の前に立たされると、また別の側面が現れる。

 主に2つの側面がある。

 1つは、自社の権利を守り、利益の最大化である。もう1つは、順法コストの最小化と、いずれも経済学・経営学の目線が求められる。

 「法経済学」(Law and Economics)という比較的新しい学術分野がある。経済的分析に基づく法の判断を試み、社会的効率性を実現させるという主旨の学問である。それでもやはり立法観点の学問であろうから、企業法務となれば、「経営法学」たる実学が必要になってくる。

 ただ実学というだけに、浅薄なものになってはいけない。やはり法原理の理解が欠かせない基盤である。

 私自分もセミナーや講演会で、難解とされる法原理をいかに単純明快に、分かりやすく解説するか、いつもいつも苦慮しているところだ。法律がこうなっているから、そうしなさいという乱暴な助言をなるべく避け、原理の部分から説明するようにしたい。

 こうして経営者も知らないうちに法律の原理が分かってくると、ある程度コンサルタントに頼らず、自ら判断できるようになる。

 コンサル要らず、という状態を作り上げるのが、コンサルタントの極意だと思っている。えっ、それじゃコンサルタントが生活の糧を失う?そんな心配していたら、コンサル失格だろう。