グリーンランド(7)~氷山の一角と氷山の転覆、哲学的示唆

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 8月17日(木)、グリーンランド西岸イルリサットの海から北上する船旅に出る。前夜から天気が崩れ出し、当日はあいにくの雨天、いやそうでなく、幸運にも雨天に恵まれる。

 まずは年間日数の3分の2が雨や雪のアイスランドでは、奇跡的にも前後が雨で滞在中の数日だけが快晴だった。グリーンランド到着後の氷河トレッキングも雨後の好天だった。今回の2週間という長旅中、たった1日だけの雨ということで文句を言ったら罰が当たる。

 「皆さんは幸運です。これがグリーンランドの本来の姿ですから」。ツアーガイドのティナーさんがやや興奮気味に語る。商売上のパフォーマンスなのかもしれないが、嘘ではない本当の一面もあるので、そのまま受け止めておきたい。

 船は出港してエキ氷河(Eqi Glacier)を目指して一路北上する。低く垂れ込めた厚い灰色の雲をバックに海がやや荒れ気味。海面に浮かぶ氷山は冷たい青灰色を呈し、怪しい透明感を帯びている。

 いや、「海面に浮かぶ」という表現は、単なる私の視覚による直観的な反映にすぎない。まさに、「氷山の一角」というだけにその氷山の9割が海面下に不可知の形で存在しているのである。

 専門家によると、氷山が氷棚から崩落したとき、周囲の環境と静力学的平衡が機能し、一般には氷山の10分の1が海面の上に残り、残りの10分の9は海面下に沈むという。氷は水面に浮かぶというわれわれの常識、そして肉眼の視覚による直観的写像に基づけば、ついつい「海面に浮かぶ氷山」という論理的誤謬に至る。

エキ氷河到着

 そして、さらなる変化が海面下で起きる。海中では氷山が溶け始める。要するに同じ氷山でも海面上の部分が空気、海面下の部分が海水という異なる外的変動要因をそれぞれ抱えているのだ。そこで、海面下の氷山が徐々に溶け始め、ある時点で全体的バランスが崩れ、氷山の上下が逆さまになるそうだ。

エキ氷河

 このいわゆる「氷山の転覆」現象はめったに目撃することができないので、あまり知られていないようだ。「氷山の一角」から本質的な部分に突っ込むと、水面下の変化の進行から、最終的に「氷山の転覆」という均衡の崩壊に至る全体像が浮かび上がる。

 これは哲学的な示唆であり、様々な事物に共通する基本原理として肝に銘じたい。

 昼、船はエキ氷河に到着。船上でランチを取り、1時間半ほどの停泊を経て帰路につく。夕方、イルリサットの小さな港に帰着したとき、小雨がまだ止んでいない。

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