辞めるかもしれない人間のために補欠要員を雇っていいか

 中国の急激な賃上げに懸念の声が上がっている。

 賃上げそのものはそれほど怖いものではない。怖いのが労働生産性と商品付加価値成長の停滞だ。賃金は製品コストの一部分であり、製品の付加価値と市場価格が上昇すれば、賃上げはむしろ当たり前のことだ。

 言い換えれば、賃上げには3つの対策しかない――。1、労働生産性の向上。2、商品付加価値の向上。3、中国撤退。

 日常のコンサル現場では、賃金を抑える方策を求める顧客企業も見かけるが、私はあまり賛成しない。賃上げ一色の現在、賃金を抑えることは士気低下や人材流出につながりやすい。それよりも、やはり生産性と付加価値に着目すべきではないかと思う。

 金曜日の午後打ち合わせで来社した製造業E社も、中国工場のライン自動化を検討しはじめているようだ。生産性向上は避けられない。

 特に労働集約型の現場では、工員の募集が難しくなってきた。このため、一部の企業では、100人が必要なところ、120人を雇って、人員流出補てん要員数を織り込んだ人事計画で運営している。これは労働コストを押し上げるだけでなく、生産性の低下を招致し、ひいては一人当たりの低賃金がさらなる流出を招き、悪循環に陥る。

 やめるかもしれない人間のために、補欠要員を事前に手配しておき、低稼働率で運営する。理屈は分かるのだが、あまり賢明なやり方とはいえないだろう。

 やめないようにすればいいのではないか。そう簡単なことではないが、知恵を絞ってやらないといけないときがもう、そこまで来ているのだ。

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