私はこうして会社を辞めました(17)―私はピカソ!

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(敬称略)

 ピカソの名前は長い!パブロ・ディエーゴ・ホセー・フランシスコ・デ・パウラ、ホアン・ネポムセーノ・・・。

 ロイター通信社には、大勢の外国人社員がいる。むしろ、日本人が少数派である。ロイター中国や香港にくると、中国人社員でも、皆英語名が付いている。

 私の名前がとても長く、発音も難しく、外国人にも中国人にも覚えてもらうのに大変苦労した。すると、周りの中国人同僚が、「Tachibana-Sanも英語名を付けたらどうですか」と熱心に勧めてくる。中に勝手に私の英語名を考えてくれる親切な人もいた。私の名前の「聡(さとし)」が中国語発音で、「チョン」というので、じゃ、英語の「John(ジョン)」でどうかと。それをすぐに断った。私は、日本人だ。どう考えても、「ジョン」という名前が、私に合っていない。

 「私は、タチバナ・サトシです、英語名は、TACHIBANA SATOSHIです」と、私は一点張り。
 「でも、お名前が長くて、覚えやすい英語名の方が・・・」
 「ピカソの名前がもっと長いじゃないか」、私が反発する。
 「でも、彼は、有名人だから」
 「私も死んだ後、有名人になるかもしれないから、いまのうち、慣れておいた方が良い」、私は頭にきた。

 ピカソの長い名前は有名で「パブロ・ディエーゴ・ホセー・フランシスコ・デ・パウラ、ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピーン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」というのがご存知?

 中国人がファーストネームに英語名を付ける習慣は、香港から来ているらしい。イギリス植民地時代の名残で、読みにくい漢字名を西洋人に一々覚えてもらうのが大変で、英語名を付けたらしい。

 ロイターをはじめ、私が知っている多くの中国人・香港人が皆英語名を持っている。「ジャック」や「ケビン」、「ジェニファー」といった一般的なネームならまだしも、なかに、「アレキサンドラ」や「シンデレラ」、「エリザベス」まで偉大な名前を持っている強者もいる。何だか鳥肌がたつ。あまりにも派手すぎるのか、「アレキサンドラ」を「アレックス」にしたり、「シンデレラ」を「シンディー」にしたり、「エリザベス」を「エリサ」にしたりして、落ち着きを少しでも取り戻している。

 私は、決してアジア人の英語名を排除しているわけではない。うまく、英語名を使っている人もいる。たとえば、中国人で「馬莉」なら「マリー」や「メアリー」、日本人で「○○譲二」なら「ジョージ」、うまい具合に付けると良いのだ。中にも、日本人女性で、「直美」や「尚美」の「ナオミ」と言う名前は、都合が良い。あの英国出身のスーパーモデル、ナオミ・キャンベルのファーストネームは、何と日本人と同じ「Naomi」なのだ。

 英語名を拒否すると、中国人同僚も私の性格が分かったようで、それまで「立花」の中国語読み「リーホァー」と読んでいた人まで、一斉に、「Tachibana-San」に切り替えた。

 私は、役職呼びも好きでなく、社内で「社長」呼びは一切禁止、「さん付け」に徹している。

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