ベルリンの壁、万里の長城、そしてファイアウォール・・・

 ベルリンの壁が崩壊して、今月で20周年。

 東西ドイツが統合しての20年を振り返ると、ドイツが弱くなったなと実感する。冷戦時代の世界の寵児、西ドイツは、いずこへ。ドイツは、いま輝きを失った。経済的崩壊状態の東独を抱え込んだ西独は、兆ユーロ単位の資金を投入して再建に努めたが、いまでも、旧東独地域の失業率が西の倍になっているという。

29107_2倒壊後のベルリンの壁は観光名所となった

しかし、民族の統合に異存を唱えるドイツ人はいまでも少ない。世の中は、すべて経済学で解釈できるものではない。

 ベルリンの壁が存続する間、それを越えて西側に脱出しようとした住民で東ドイツ国境警備隊により狙撃され、死亡者数は合計192名。ただし、さまざまな方法で壁の通過に成功、生きて西ベルリンの土を踏む東ドイツ国民は5000人を超える・・・

 ベルリンの壁は、他国への脱出者を阻止するものであれば、中国の万里の長城は、他国の侵略を防御するものであった。しかし、この防御機能は今日において皆無になった。それよりも、文化遺産になって、宇宙から唯一肉眼で確認できる地球上の建造物として、存在価値をアピールしている。

 「グレートウォール (The Great Wall)」、万里の長城の英語名である。「グレート」という英語は、スケールの「デカさ」を誇示する量の表現と「偉大」という質の表現が内包されている。「万里の長城」は、ただデカイだけなのか、それとも「偉大」でもあるのか?

 我々の地球から約2億光年離れたところで、5億光年以上の長さと約3億光年の幅を持つ、巨大な数の銀河からなる「壁」がある。1989年にハーバード・スミソニアン天体物理学センターの科学者たちによって発見され、それも「The Great Wall」と名付けられた。

 そして、われわれ日々の生活や会社の経営に目を向けると、いたるところに「壁」が作られてはいないか。コンピュータネットワークの安全を守る「ファイアウォール」が作られて久しいが、コンピュータは安全になったのだろうか?様々な制度に様々な規制、様々な「壁」を設けても、違反者が消えることはない。

29107_3宇宙からも見える?万里の長城

 「防衛」の英語は、「ディフェンス(Defense)」という。そもそも防衛は、「フェンス」、壁作りから始まるものだ。しかし、「壁」だけでは、もう守られない時代になった。私も、コンサルタントとして、日々顧客企業のために、様々な「壁」を作っている。それを作りながら常に考えることは一つ――「壁」よりも、本当に会社を守れるものとは何か?

 「守り」の基本とは何か?それはほかでなく「攻め」なのだ。しかし、「守り」の「壁」さえ作ろうとしない企業はいまだに存在する。あるいは、「壁」を設けないまま、裸で「攻め」に出ている・・・

 「壁」はできているのか、「壁」は役に立っているのか、「壁」は崩壊しないか、そして、「壁」よりも力強い「攻め」のパワーはもっているのか・・・ 在中日系企業が考えなければならないものは、たくさんだ。