中国語よりも日本語下手な日本人

 「ウォルマートが『フォーブス誌』のトップ企業500社ランキングで2位にランクされている」。外注翻訳者から上がってきた原稿だ。

 この翻訳文(中→日)に、どこかおかしくないか。誤訳がある。「フォーブス誌」ではなく、「フォーチュン誌」である。中文名の「財富」と 「福布斯」の混同。企業番付と長者(富豪)番付の混同。

 中文名「財富」(英語名:Fortune) ⇒ フォーチュン誌 ⇒ トップ企業番付
 中文名「福布斯」(英語名:Forbes) ⇒ フォーブス誌  ⇒ 世界長者番付

 中国語と日本語の翻訳で、本当に、良い翻訳者はいない。・・・嘆く。

 母国語原則で、「日→中」翻訳は中国人担当、「中→日」翻訳は日本人担当。どちらかというと、「日→中」の中国人に、まだ優秀な人がいる。日本人の「中→日」はずさんそのもの。

 問題は、翻訳者の不勉強だ。正確に言うと、「語学」以外の学問の不勉強。日経新聞を読破せよとは言わないが、1日最低1時間、ざっと目を通して、そこから2~3記事をピックアップして精読する。精読とは、徹底的に理解することだ。たとえば、日経の「経済教室」はとても良い勉強になる。一見難しそうでも、ゆっくり読んでいけば分かるようになる。それでも、分からなければ、インターネットで調べれば必ず回答が出るだろう。毎日、欠かさずに読めば、見る見るに成長するだろう。

 翻訳者の実務知識やビジネス一般知識の欠如が致命傷だ。中国の大学の中国語留学コースのカリキュラムにも問題がある。上級者コースでも、経済記事やビジネス文書の勉強がほとんどない。そもそも、中国語を教える先生は、みんな語学専門家でも、経済やビジネスなどに、関心もなければ教える力もないだろう。だから、中国語の学習は、中級クラスになれば、語学クラスをやめて、経済なら経済、法律なら法律、専門に進めばよい。

 そして、日本人は、日本語の勉強を怠らないことだ。中国語がめちゃくちゃ流暢な日本人でも、文書を書くと、日本語の言葉が出てこないのだ。

 そう、日本人の日本語が下手、というのが問題だ。

 だから、語学以外に経済や実務の勉強をしないとダメだ。中国語の原文をまず、しっかりと理解して、完全に噛み砕いてから、自分の日本語で表現するのが翻訳だ。単語の置き換えではない。

 単語といったら、別の問題がある。英→和翻訳ではあまり見られないが、中→日翻訳で、よく中国語流の日本語が見られる。読んでいて、分からないわけではないが、どうも日本語っぽくないから、ぎこちない。たとえば、「会社の発展」、これは中国式で、日本語に訳すと、やはり「会社の成長」がスムーズではないか。

 先日、某メディアの日本人編集長と会話していたら、「いま、日本人の日本語力低下が問題だ」と嘆いていた。

 中国人も同じ。中国語にも謙遜語や敬語がある。しかし、うまく使いこなす中国人、美しいビジネス文書を書ける中国人は今少ない。とても、残念だ。外国語の勉強は重要だが、まず母国語の基礎をしっかりとやってくださいと、それから、語学以外の勉強、雑学、人間性のブラッシュアップ・・・

 日々、他人の秀作を読んでいると、いかに自分が愚かだということが分かる。今日も明日も日々勉強です。私は、日本と中国、二つの文化を抱えている人間なので、人一倍の努力をしないと・・・