スリランカ日記(16)~立花流トランジット・パラダイスその一

<前回>

 私には、飛行機の乗り継ぎ時間を楽しく過ごす「トランジット・パラダイス」がある。しかし、大きな荷物を経由地で引き出したり、運んだりすることが負担になり、また時間の無駄も生じるため、荷物だけは最終目的地に送りたい。

 1月2日夜、スリランカのコロンボ空港で、大きな荷物2点をスルーチェックインしようと考えたのだった。スルーチェックイン(Through Check-in)とは、航空業界の専門用語で乗り継ぐ場合、最初のチェックイン時に乗継便のチェックインも同時に行うことである。「通しチェックイン」という意味である。ただし、同一航空会社か提携航空会社同士の乗り継ぎでないと、コンピューターシステムが共有されていないため、通常スルーチェックインはできない。今回私の場合、上海・バンコク間は中国東方航空(MU)、バンコク・コロンボ間はスリランカ航空(UL)、提携航空会社でない上、中国の航空会社は別システムを使っているので、スルーチェックインができないはずだ。

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 しかし、チェックインには二つ意味が含まれている。一つ、乗客という人間の搭乗チェックイン、つまり搭乗券をもらうことだ。もう一つは、荷物のチェックインで、こちらは荷物のバゲージタッグ(目的地での引換券)をもらうことだ。非提携航空会社の場合、乗客の搭乗スルーチェックインができない、つまり他社便の搭乗券を発行できない。しかし、荷物のスルーチェックインは大抵できるのである。にもかかわらず、最初の搭乗便の航空会社はきっぱりと、「できない」とスルーチェックインを断る場合が多い。その理由は、二つある。一つの理由は、荷物の乗り継ぎ転送のためのコンピューター入力が煩雑であること、もう一つは、荷物の乗り継ぎ転送でトラブルが発生した場合、自社も巻き込まれるリスクがあることだ。転送トラブルとは、荷物のトラブル、つまり乗り継ぎ空港での荷物の扱いミス、又は乗客自身のトラブル、たとえば荷物は乗り継ぎ便に積んだにもかかわらず、乗客が乗り継ぎ空港で搭乗チェックイン(搭乗券をもらうこと)をしなかったり、または乗り遅れたり、或いは最終目的地でビザなどの関係で入国を拒否されたりすることなどが挙げられる。

 そのため、非提携航空会社はなるべく、スルーチェックインを回避したがる。コロンボ空港では案の定、スリランカ航空の係員が嫌そうな顔をする。逆に、私は愛想よく笑顔で切り出す。「こんばんは、ちょっと入力は大変でしょうが、バゲージのスルーチェックインでお手数をおかけします。MUのボーディングパスはBKKで別途チェックインしますが、バゲージだけは、ファイナル・ディスティネーション(最終目的地)のPVGまでやっちゃってください」と、やたら業界用語だらけにしておき、「おれは知っているぞ、カラクリを」というメッセージを送った。

 「バンコクでイミグレをクリアしますか」、係員が意地悪そうな表情で聞いてきた。バンコクの乗り継ぎ時間が長いので、大方の乗客は一旦タイに入国する。すると、係員は、「入国するのなら、荷物のスルーチェックインはダメ」と言ってくるだろうと、私はそう読んだ。実際には、私はバンコクで入国して「トランジット・パラダイス」を楽しむ予定でいる。さあ、どうしよう。

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 「アイ・フォロー・ザ・ルール」と、私が答えた。私は、イエスもノーもなく、ただ規則に従うという意思表示にとどまった。規則には恐らく乗り継ぎ経由地での入国禁止事項が書かれていないだろう。法や規則に禁止されていなければ、あとは私の自由である。

 ため息で諦めたスリランカ航空の係員は、悪戦苦闘を始めた。5分後、入力が終わり、私の前に「CMB → BKK → PVG」の荷物タッグ(引換券)が差し出された。

 「サンキュー・ソーマッチ」、私は大げさな笑顔で謝意を表明し、出国検査場へ向かった。

<次回>