スリランカ日記(15)~美食物語その二、カレーと福神漬け

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スリランカ料理といえば、カレー。地元では、「カリ」というが。そのカレーは、一日三食、食卓に上るほどの国民食だ。

31895_1カレーミックス(マウント・ラヴィニヤ・ホテル)
31895b_1カレーミックス

 私も妻も完全に現地食派で、世界のどこを旅してもたっぷりと現地の料理を口にする。そこで、スリランカでも基本的に1日2食以上はカレーを食べ続けていた。

私が今まで食べたカレーを、自分流に分類すると、タイ系、マレー系、インド系、ネパール系、日本系、そして無国籍系と6種類だったが、今度の旅で、スリランカ系という7種類目ができたのである。

スリランカのカレーというのは、もはやカレーという調理方法ではなく、カレー味が一種の国民的調理料になっているように思えたのである。言ってみれば、日本人や中国人にとっての醤油のようなものだ。

31895_2カレーミックス(ヌワラ・エリヤ)
31895b_2カレーミックスとストリングホッパー(キャンディ)

 スリランカは香辛料の産地でもあり、スパイシーな料理が多い。国民の2割弱がタミル人であることから、南インド料理との共通点も多い。スリランカ料理の特徴といえば、まず、カレーにココナッツミルクを多用して仕上げる傾向が強いこと、海洋国であるために魚介類のカレーが多いこと、鰹節によく似た魚の乾物から出汁を取ったり、料理に加えたりすることなどが挙げられる。

スリランカの食事では、野菜や鶏肉、牛肉、魚、ダール(二つに割って去皮した小粒の豆類)など様々な食材がすべてカレー風味に調理され、どーんと小皿で食卓に出てくる(ビュッフェ形式も多い)。そして、大皿の真ん中にまずご飯を盛って、異なるカレー料理をご飯の周りに取り、好みでご飯に混ぜながら食べるのだ。主食のご飯だが、朝食の場合、ホッパー(米粉で作るパンの一種)やストリングホッパー(ライスヌードルの一種)に取って代われる場合もある。ホッパーやストリングホッパーにカレーをかけて食べるのも大変美味しい。カレーパンやカレーヌードルになるのだ。

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31895b_3ゴール・フォート・プリンターズ・ホテルのカレーミックス(上=夕食、下=朝食)

 カレーは激辛ではない。ココナッツミルクがよく効いているので、マイルドといえる。辛党なら、さらに唐辛子や辛味噌を乗せて食べても良いが、あまり辛くなると、チャツネという逃げ道がある。チャツネ (英語 Chutney)とは、南アジアや西アジアを中心に使われているソースというか、ペースト状の調味料である。名前はヒンディー語で「舐める」を意味する「チャートゥナー」に由来する。各レストランや家庭ごとに独自のレシピがあり、味は多様である。「舐める」という言葉の通り、カレーで口がピリピリ辛くなると、チャツネを舐めるのだ。そうすると、口中が一気に中和され、今度甘くなると、また辛いのを食べたくなる。という奇妙な食材である。

スリランカ・カレーを食べながら、チャツネを舐めていると、日本の福神漬けを思い出さずにいられない。チャツネは南国のフルーツを材料として多用しているが、福神漬けは大根、ナス、ナタマメ(鉈豆)、レンコン、キュウリ、シソの実、シイタケまたは白ゴマなどの7種の野菜類を細かく刻み、醤油と砂糖やみりんで作るのである。ご飯のお供にこれさえあれば他におかずは要らず、食費が抑えられ、金が貯まり、家に七福神がやってきたかのような幸福感が得られるということで、「福神漬け」と名付けられたという説もあるようだが、真偽の判断はできない。

31895_4ロブスター(ゴール)
31895b_4朝食のマーマレード、アプリコットジャムも美味しい(ヌワラ・エリヤ)

 しかし、福神漬けはなぜ赤くなっているのだろうと私はずっと不思議に思っていた。スリランカで毎日のように、色鮮やかなチャツネを舐めていると、もしやチャツネの真似ではないかとふと思った。後から資料を調べてみると、以下のように記載されていた。

「日本においてカレーライスに添えられるもっとも定番の漬物だが、これは大正時代(明治35、6年説あり)に日本郵船の欧州航路客船で、一等船客にカレーライスを供する際に添えられたのが最初であり、それが日本中に広まったとされる。福神漬が赤くなったのは、このときにチャツネに倣ったという説がある」

やっぱり、そうだったのか。

チャツネも、福神漬けも、幸せにしてくれる素晴らしいものだ。しかし、それで食費が抑えられ、金が貯まるという節約志向がエスカレートすれば、日本のデフレがいっそう進み、景気回復が困難となるだろう。まあ、経済のことなど、食事のときくらいは忘れようと・・・

カレーは美味しい。ポナペティ!

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