流氷紀行(3)~日本の鶴と中国の鶴

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 「クッ、クッ」
 「クァッ、クァッ」

 2月11日早朝、私が泊まっていた旅館のすぐ隣にある丹頂観察センターに、何と珍しく200羽以上の丹頂鶴が飛来した。

33524_22月11日朝、北海道・阿寒町丹頂観察センターに飛来するタンチョウ

 晴天に恵まれ、真っ青な空をバックに優雅に羽ばたくタンチョウ。何と美しい風景だろう。

 ご存知か。中国が国鳥を定めようとして選定したところ(国家林業局と中国野生動物保護協会が2003年実施)、人気一位は丹頂鶴(以下、「タンチョウ」という)で支持率64.9%、二位は朱鷺(トキ)だった。しかし、思わぬ展開となった。実は、このタンチョウの学名は「Grus japonensis」、英語名は「Japanese Crane」となっており、つまり「日本のツル」、「日本の鳥」というわけだ。ただでさえ、「日本」に敏感な中国では、タンチョウを中国の国鳥にすると、大問題を引き起こすことは目に見えている。そこで、余談になるが、面白いことに支持率二位の朱鷺にすればよいのではないかというと、その朱鷺の学名はまたもや「Nipponia nippon(ニッポニア・ニッポン)」で、これ以上ないニッポンらしいニッポンだった。ということで、タンチョウも朱鷺も中国の国鳥にするわけにはいかなそうだ。

33524_32月11日、北海道・阿寒町丹頂観察センター

 国力のついた中国は、タンチョウを国鳥にすべく、学名や英語名の改名を国際社会に求めるのも一案だが、なかなか難しいだろうし、できるとすれば、中文名の改名しかない。タンチョウは、「丹頂鶴」ではなく、「中国鶴」にしたらどうだろうか。そもそも、英文名や学名など、気にすることはないと私は思う。まず、日本の国鳥が「雉(キジ)」である以上、タンチョウの選択肢は中国に与えられた。タンチョウは確かに日本の特別天然記念物に指定されているが、ロシアや北朝鮮、韓国のほか、中国でも黒龍江省や吉林省などに生息しているし、ロシアとの国境を流れるアムール川流域を主な繁殖地としている。

33524_4丹頂鶴を描いた中国の切手、「Grus Japonensis」という学名も記されている

 タンチョウの国鳥選定問題が持ち上げられた一方、草の根運動が進行し、ネットユーザーの間から「スズメ(中国名:麻雀)」を推す声が上がった。「スズメ」を選んだ理由は、「国民に親しみやすい」「見た目は地味でも生命力は強い」「黙々と逞しく生活する姿が自分達と重なる」「不屈の精神がある」などとなっている。

 私から見れば、「鶴」も「雀」も中国の「国鳥」に相応しい。というよりも、それぞれ「官」と「民」を象徴している、といえば、ぴったりだ。

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