値切り交渉はご無用

 先日、某X社から社内研修の依頼を受けた。一回の研修につき参加者10名~20名・4時間の標準料金で契約を交わした。

 契約の直後、X社人事課担当者の中国人Lさんから、「中国国内各拠点から、6~7名ずつの要員がTV会議中継で研修に追加参加していいか」と連絡が来た。私は、即座それを断った。たとえ取引キャンセルでも、断る。契約を結んで、双方がその約束を固く守る。契約してから、ころころ条件を変え、交渉を仕掛けるのがいかにも中国流で、私はこの「中国流」が大嫌いなのだ。せいぜい、人数の追加をしたいので、費用を再協議してもいいかというのがマナーではないか。

 契約前でも、私、当社は一切値切り交渉に応じない。これも、以前ブログで書いたことがあるが、顧問企業割引、大口割引(複数サービスや案件の同時依頼など)について、当社はすべて割引率を明示している。割引率も正札一本で、決して交渉をしたから、どんどん下げるようなことは一切しない。交渉したら、安くなる。では、交渉しないお客様では安くならない。おかしいではないか。「正直者が馬鹿を見る」ことは断じてあってはならない。すべてのお客様と均一で公正、公平の取引をするのが、商売のやり方だと思っている。

 中国では、値切る行為が常態化している。買い物でも、50%くらいから値切って、70%くらいで妥結する。このようなことは当たり前だ。私自身も、値切って交渉を決してしない。その代わりに、逆オファーをする。どういうことかというと、たとえば、売り手が「100元」と売値をオファーする。すると、私はその品を吟味して、逆に買値をオファーする。50%から値切るとか、そういう枠には一切捉われない。ときどき、100元の売値オファーに、「30元なら買う、31元でも買わない」と逆オファーすることもある。「冗談じゃない、これじゃ、私は赤字だ」と売り手。「損して商売することはない。じゃ、取引なしだ」と帰ろうとすると、「分かった。30元でいいよ」と売り手が妥協する。それを見て、私は限りなく悲しくなる。50元から値切って70元で買った人間はまんまと騙されたのではないか。

 値切り交渉はしない。「買う・買わない」、「売る・売らない」の決断だけ。経済学的には、値切り交渉は一種の取引コストである。買い手の値切りを予測して、高めの料金を設定する売り手、そして妥結ラインを推測しながら交渉していく買い手、まあ、この駆け引きを面白いと思ったら、それはそれでいいのかもしれないが、私はこの種の取引コストを省きたい。

 正札販売のヨーロッパのデパートで値切る中国人観光客もいる。売り手に対し失礼千万だ。売り子が冷たい笑顔を浮かべながらも、客を見下している表情は隠せない。悲しい限りだ。中国に来て、中国の値切る習慣を身につけた日本人もいるようだが、良し悪しはそれぞれの価値観次第だ。

 当社は、決してデパートではなく、小さな靴屋だ。でも、料金システムはデパート形式、正札販売のみだ。そして、当社の見積書には、これから「Non-Negotiable」を大きく記入することにする。値切り交渉はご無用!