風景いろいろ目線いろいろ、お上りさんのKL詣

 一昨日、所用があって、久しぶりに大都会クアラルンプールへ上京した。大都会へ行く道は「上り」、反対方向は「下り」というだけに、上下の関係が明らかになっている。お上りさんとしては、「下から目線」を丸出しにしての上京で、いささかコンプレックスを感じずにいられない。

 現代の大都会に住み着く人の大半は、地方出身者である。下から上を見上げる「下から目線」では常に眩しく感じる。すると、バランスで逆方向の「上から目線」を取りたくなるわけだ。その時は、高いところへ上り、そこに住めなくても、お茶いっぱいでもいいから飲んでいる間に誇らしげに、「上から目線」に浸かることができるのだ。

 私もその「上から目線」を体験したくて、奮発して、あの高級ホテルであるバンヤンツリーのカフェで、アフタヌーンティーをいただくことにした。カラフルではあるが、お世辞にも美味しいとは言えないサンドイッチやスコーン、ケーキ、クッキーといったスナック類をつまみ、お茶を啜っている間に、クアラルンプールの街並みをたっぷり「上から目線」で見下してやる。

 周りを見渡すと、スナックやお茶の1つに手を付けずに、遠近の多方面からパチパチとスマホを向ける一団の若い女性客がいた。逆光の窓外と人物像の両方をうまく1枚に収めるのは簡単ではない。何回もトライアンドエラーを繰り返しながらの奮闘は誠に微笑ましい。席に着くや、またカチカチとSNSへの投稿で忙しい。

 「お嬢さん、お茶冷めますよ」。こんな余計なお世話をしたら、変なおじさん扱いされるのがオチだ。お嬢さんたちは、せっかくの「上から目線」を一刻も早くみんなにシェアしてもらいたい。お気持ちはわかるわかる。

 と、1時間も経てば、「上から目線」に飽きた私は、さっさと車に乗り込んで田舎への「下り」の帰路につく。クアラルンプールの市街地から離れていくにつれて、高層ビルのスカイラインが徐々に山々の稜線に取って代わられる。気が付けば、「上から目線」が知らないうちに「横から目線」に変わっていた。

 静寂や自然の息吹は、私にとってなくてはならないものである。何よりも、この「横から目線」は、原始的で温かい。

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