起業家・経営者へのメッセージ~上場と資本主義

 水野さんから素晴らしい投稿がありましたので、全文転載させていただきます。いや、大変失礼しました。投稿よりも、ずしんと重みを感じさせる論文級の名作です。起業家や経営者の皆さんへのメッセージとして、かみ締めるよう読んでいただきたいと思います。(また、本日の後続展開として、明日の記事もご覧ください)

=====上場と資本主義に対して思う事(水野真澄氏)=====

 通常上場を希望する気持として、以下が考えられると思います。

 1)達成感(虚栄心もあるかもしれません)
 2)資金的な安定(暫し、資金の事を考えなくてもよい安心感)
 3)事業拡大のための資金の調達

 その他、上場の意義などは言いだせばきりがないのですが、起業家としての上場の意義(モチベーション)の主要因は上記の通りでしょう。

 1)の達成感は、それが、前向きに進むモチベーションになるのであれば、よいと思います。

 2)資金的な安定というのは、例えば、1年前の水野の様に、安定資金があれば、悩まなくて済む、という若干、弱い気持ちですね。今の水野はこの様な必要が無くなるまで頑張った自意識が有るので、この点、自分の意見を通せるようになりました。

 3)の事業拡大のための資金調達、というのは、これは前向きな意義があると思います。つまり、会社が公共化する事(自分の手の中では動かなくなる事)を覚悟して、前向きな資金を調達する事です。

 ただ、2)と3)の区別は、経営者次第。日々の運営資金をこの様な資金調達(上場による資金調達)無しでも回せる事を前提に、事業拡大部分を上場により調達するのが筋ですが、双方が分離できなくなり、調達資金を食いつぶしていくようでは、問題が生じます。

 上場を希望する起業家の注意点としては、会社運営資金を、通常の事業キャッシュフローで回す事に責任を持ち、事業拡大資金のみを上場(若しくは、他の出資者からの増資)で調達する事。そして、事業拡大の明確なビジョンを持つ事です。増資資金・上場資金を、日々の資金繰りに充当して、食いつぶしているようでは、経営者として失格です。

 以上は、起業家(経営者側)の心構え。

 あとは、上場そのものの意義、というのがあり、これが、ここ数年の自分の心の変化になっています。一般的に、オーナー企業と上場企業を比較すると、上場する事により、会社の健全化が図れると言われます。完全な性悪説と確率論に立てば、それもしかりと思います。つまり、オーナー一人の理性にかけるのと、出資者が多数意見を提示し、オーナーの独断を阻止するのとでは、確率論的には後者の方が、会社運営が健全化する可能性が高い、という前提に基づいた考え方です。

 これは、米国的資本主義の根本的な考え方(完全な性悪説に立った意見)でしょう。この価値観は、歴史的にみると、旧ソ連式共産主義と、米国的資本主義という、分かりやすい二局の価値観の中で、旧ソ連式共産主義が適切に機能しなかった結果を踏まえ、相対的に米国的資本主義の評価が向上した事で是認されたものです。ただ、米国的資本主義の是非についても、未だ、結果が出たものとは思えません。これが、自滅する可能性も残されています。その意味では、まだ、歴史の検証の過程にある考え方と言えるでしょう。

 企業経営には心、想いが必要です。

 この想いとは、上司と部下、国、守るもの(企業理念)、顧客との信頼、その他の要因により構成されています。

 会社の顧客、部下が苦しんでいる時に、部下を解雇してでも、調達先を切ってでも、企業の短期利益を極大しさえすれば、経営者が非常識に高額な報酬を得ても是とされる米国的資本主義の考え方が、本当に世の中を良くするかは、水野として疑問を感じます。

 短期的に、稼いで売り抜ければ勝ちという、生き馬の目を抜く、と言えば格好いいのですが、その実、自分の利益のみを是とした考え方が、この世の中を良くするとは到底思えません。米国的資本主義の考え方は、消去法(確率論)的には是かもしれません。但し、ルールを作る側に身を置けば、何をしても肯定される世界(ルールを作る人間が、全て自分の思うように人を罰する事ができ、稼ぐ事ができる世界)が、今の米国的資本主義であるとすれば、それは正義とは思えません。その意識が、上場=是、上場>オーナー企業という、ステレオタイプの価値観に、現在の水野が否定的な見解を持つにいたったものです。

 勿論、企業の活動はそれぞれ。資金を使わなくては、延びる事ができない事業もあります。これは、上場などの形で資金調達せざるを得ないでしょう。それに対して、水野は非と言いませんし、明確なビジョンの下にその行動を行う経営者であれば、その心意気を称賛します。

 ただ、水野の業務は、自己資金で回せるものであり、幸い、現在では、自己資金で経営が成り立つ状況になっています。水野の会社には、プレミアム付きで出資をしてくれた出資者が1名います。水野が成功するかどうか分からない時期に、資金出してくれた出資者には、今でも言葉もないほど感謝していますし、その恩に応えたいと考えています。そして、この出資金は、会計的には、出資(返済義務がない資金)であっても、水野の気持としては「貸して頂いたお金」です。なるべく早く、配当で同額以上を還元したいと考えています。

 これは、資本の理論ではなく、心です。

 資本の理論に身を置く仕事もしている水野ですが、軽薄な米国主義(表面をなぞるだけの米国的資本主義)には与したくありません。企業は生き物であり、人々の想いが詰まった存在です。これを守るのは、短期的な利益を期待する多数の出資者でもなく、銀行でもなく、会計事務所でもありません。何かと言えば、理想を持ち、自分を律する経営者であり、社員です。

 米国的な資本主義を否定する気はありませんが、これを、自分のエゴの為に利用しようとする人たちが多いのも事実。これを、軽薄的米国主義と呼ぶのであれば、この、軽薄的米国主義が世の中を汚す事を阻止するのは、われわれ一人ひとりの誠意・目的意識・理念です。つまり、自分を律する事、筋道を通す必要があります。

 安易に流されず、これから自分を見つめながら、何が正しいかを考えながら企業運営をしていきたいと思います。また、その中で安易に流されるのが人間であれば、その都度、反省していきたいと思います。人間の気持、可能性、まだまだ捨てたものじゃないと思いたいですね。