北京と上海の会員制クラブめぐり

● 北京編・中国の帝王別邸

 私は上海や北京、香港で会員制クラブめぐりを楽しんでいる。といっても、決して会員になっているわけではない。基本的に会員にはなっていない。アメックスのセンチュリオン・カード(俗称「ブラックカード」)センターを通して予約すれば、非会員でも問題なく敷居の高い会員制クラブに入れてしまう。

 先日、アルバムを整理すると出てきた写真だが、北京の「中国会(China Club)」という会員制クラブは思い出深い一軒である。

46470_2北京・中国会の客室(2004年4月撮影)

 場所は、西城区西絨線胡同51号、目立たない胡同(フートン)の一角にある四合院。清朝親王の邸宅だった築400年の建物は、派手な装飾がなく、ほぼ原型にとどまる形で改造された。宮殿風の提燈、骨董に近いレトロの家具、王朝の装飾と置物、銀杏などの木々・・・。ユニークなことに、普通の会員制クラブなら飲食やエンターテイメントだけだが、北京の「中国会」はなんと宿泊施設も併設されている。

46470_3北京・中国会の客室(2004年4月撮影)

 2004年の北京出張時に、「中国会」に泊まったことがある。わずか10室しかない客室はオール・中国式スイートルーム。本シルク刺繍の壁紙、骨董級の家具、窓外の小鳥のさえずり・・・。癒されながらも、身分不相応の緊張感で少々ストレスを感じた。ちょうど当時、私の友人の結婚式(新郎が日本人、新婦が北京人)が北京であったため、その三次会を「中国会」のバーで開催してもらった。

 2004年、当時のシラク・フランス大統領が訪中し、仏中国交樹立40周年に際して胡錦涛主席と共同声明に調印した直後、しばらく姿を消したのが噂になったが、この「空白の時間」を利用して、実はシラク氏が「中国会」に潜り込み、つかの間の中国帝王気分に浸かる「忍びの旅」を楽しんでいたというエピソードがある。

 ちなみに、「北京・中国会」の入会費は公式発表によると、1万5000米ドル。

46470_4北京・中国会客室バスルーム(2004年4月撮影)

 北京には、「中国会」のほかに、「長安倶楽部」と「アメリカン・クラブ」という二つのいわゆる名門がある。「長安倶楽部」は政治家が多用しているようで、「アメリカン・クラブ」はどちらかというと、インターナショナルな雰囲気が漂う。数年前、二度ほど「北京アメリカン・クラブ」の会議場を借りてセミナーを開いたことがあるが、サービス陣が日本人慣れしていないので、その後はやめた。

● 上海編・敷居の高くないクラブ激戦区

 上海の会員制クラブは世代交替が激しい。

 2004年頃からは、現在北京にあるアメリカン・クラブの上海版、「上海 アメリカン・クラブ」の全盛期だった。外白渡橋を渡って、旧ロシア領事館近くのオフィスビルの最上階に位置するクラブからは、外灘両岸を一望する。夜景は凄い。しかし、あっという間に凋落してしまい、原因不明の突然閉鎖になった(物件オーナーとのトラブル説も)。

 その後、米国領事館と日本総領事公邸に近い「アンバシー・クラブ(Ambassy Club)」を使うようになった。マカオのカジノ王スタンレー・ホーがオーナーである「アンバシー・クラブ」は中国建国後上海初の会員制クラブとして、老舗の貫禄で君臨した時代だった。これまでの数年間、当社のセミナーもほとんどこのクラブの会議場を使っていた。ところが、どうも近頃元気がなく、熟練スタッフの流出が激しいために、使いにくくなった。2010年から、セミナー会場は、花園飯店(オークラ・ガーデンホテル)に切り替えた。

46493_2上海キー・クラブのダイニングルーム

 2008年後半、上海に新しい会員制クラブが出現した――「上海 キー・クラブ(Kee Club)」。香港本家の「キー・クラブ」は、香港で何回か食事したことがあるが、とにかく英国風のエレガントさが売り物らしく、西洋料理も悪くない。

 「上海 キー・クラブ」は、キー・クラブとアルフレッド・ダンヒル、ヴァシュロン・コンスタンタン(ジュネーブ高級時計)とのコラボで作られた。准海路796号番地、繁華街から横丁に入ると、芝生と華麗な旧フランス租界時代の館2棟が現れる。私流でいうと、典型的な「ジョッフル様式建築」である。仏租界時代の淮海路は、「アベニュー・ジョッフル」(Avenue Joffre、中文は霞飛路)と呼ばれていた。このツイン・ヴィラも1921年に建築された古い建物である。クラブのすぐ近くには、アジアにおける現代アートの中心地として有名な「上海アートギャラリー」も軒を連ねている。

46493_3上海キー・クラブのカクテル・レセプション

 雰囲気の良いクラブである。レストランでは、フレンチと中華が選べるようになっている。また、満員でもなければ、サービス・スタッフの人数が客よりも多いことに驚く。この情況を見る限り、当分赤字経営ではないかと思えてしまう。

 上海の会員制クラブは、総じて敷居がそれほど高いわけではない。基本的に高い入会金が不要で、年会費といっても、消費金額のプリペイドである。数万元を前払いさえすれば、よほど柄の悪い人でない限り、誰でも入会できてしまう。特に法人として使いやすい。当初はとりあえず敷居を低くするのが、未熟市場を切り開くための戦略なのだろう。