すでに起こった未来は見えてますか?

 前回のセミナーのアンケートを見ると、二つまったく異なる意見が寄せられた。

 意見その一、「セミナー冒頭部分の情勢解説が長すぎて、実務ポイントの説明時間が不足になりがちだ・・・」

 意見その二、「法令の実務対策、いわゆるテクニカルな部分よりも、メカニズムの解説で役に立った。経営のあり方を見せられて感銘を受けた・・・」

 実務セミナーでは、通常主な実務ポイントを8~10くらいピックアップし、その中の半分を詳説し、残りのものは「事後ご一読」とのことで受講者にお願いしている。実務ポイントは、8~10ではない。80や100もあるのだ。言ったらきりがない。それこそ、セミナーならその一、その二、シリーズを組んで、いくらでもネタがある。むしろ、私のようないわゆる某業界の専門家にとって、セミナーで利益を上げようとしてもさほど困難なことではない。

 実務のポイントが企業現場で大変役に立っていることはよく知っている。「立花先生から教わったことを、そのままやったら、問題が解決されました」――。このような嬉しいフィードバックもたくさんいただいている。

 でも、新法令が出れば、政策がちょっとでもぶれると、また新たな問題が生じる。経営コンサルタントにとっては嬉しい商売のネタだが、でも、これでいいのか。顧客もコンサルタントも進化が止まってしまう。

 私としては、顧客のために問題を解決するのが仕事だと思っているが、顧客に「問題解決の力」をつけてもらい、企業自身が現在の問題だけでなく、将来起こりうる問題も自力で解決していくことを願って、さまざまな努力をし、またこれはコンサルタントの仕事の極意だとも考えている。

 「問題解決の力」をつけるために、歴史に学ぶことが欠かせない。時系列を俯瞰して、その全体像を把握すること。ある期間にわたりある領域で起こっていることを連続的にスナップ写真を撮るように分析すれば、変化を示すパターンが認識できる。そのスナップ写真と分析ツールを提供するのが、私の仕事だと考えている。

 将来の予測は愚かである。将来の予測よりも、すでに起こった未来を見つめることである。時系列の一連のスナップ写真からは、間違いなく、すでに起こった未来が見えてくるのである。

 最後に、ドラッカーの言葉で締めくくる。

 「経営管理者にとって最重要の仕事とは、すでに起こった未来を見極めることである。社会、経済、政治のいずれの世界においても、変化を利用し、機会として生かすことが課題となる。――ピーター・F・ドラッカー『断絶の時代』