昨夜、上海の某レストランで食事をしていると、隣のグループの会話が耳に入った。グループは、シニアの偉い人を接待している中年社長とその部下という構成のようだ。全員、中国人。
中年社長は、安徽省の某地方で農場と牧場を購入して、農産物の自家栽培と牧畜の自営を行っていることを自慢げに披露しながら、自家産の米を一袋、偉い人に贈呈する。
「先生、これは完全に自家産です。安全確認はまったく没問題です。無農薬とか有機栽培とかが当たり前で、うちは、土を年何回もチェックしているし、田んぼの水まで全部山の上から山水を引いてきています。どうぞ、ご賞味ください。私の家族も仲間もこれを食べています。野菜は自家農園、肉は自家牧場。完全自給自足です」
「あらら、完全自給自足。これじゃ、原始社会逆戻りだな」
「毎日、新聞を開けると、有毒添加剤やら有害染色やら。今日はこれがダメ、明日はあれがダメ。報道されているのが氷山の一角でしょう。何を食べたらいいのか。断食したほうがいいみたいですね」
「まったくそのとおりだ。わしの教え子が日本にいて、大地震のあとでも、中国に帰ろうとしない。聞いたら、放射能とかなんとか、それでも中国の食品よりましだとさ・・・」
「この国は助かりませんね」
「ツケだよ、ツケ。GDPのツケが回ってきた。世の中は、公平に出来ている。わしはもう、先がそう長くないから別にいいけれど、子どもたちがかわいそうだな」
「先生、何をおっしゃいますか。どうぞ、この米を召し上がって、長生きしてください」
「どうも、どうも、そういえば、このレストランの食材は大丈夫か」 ・・・・・・
食の安全。中国の問題は、食の安全よりもそれ以前の問題、道徳倫理の問題だ。「心」の問題が解決しなければ、いくら法整備や摘発強化をやっても、事件や事故が後を絶たない。まさに、GDPのツケが回ってきたのだ。