労務派遣の死刑宣告と中国人事労務の歴史的転換

 労務派遣、これは中国の労働市場では死語になる。いや、正確にいうと、労務派遣という労働市場の産物は、中国で死刑宣告を受けたのである。

 人力資源社会保障部は、「労働契約法」改正法の細則に当たる「労務派遣の若干規定(徴収意見稿)」を8月上旬に公表した。注目されている労務派遣における「臨時的業務・補佐的業務・代替的業務」の詳細解釈、ならびに10%上限の規定など、いずれも労務派遣に対する死刑宣告を裏付ける材料、ほぼすべて出揃った。

 よろしい。やるといい。労務派遣を潰したければ潰せばよい。数百万人単位の新卒就職浪人、経済不況や産業構造転換、外資撤退による急増中の失業者、そういう時期に労務派遣を潰すという神経の持ち主、私には理解不能だ。中国の国益を考えても、まともなやり方ではない。

 まず13億人の人口を抱える大国として、とにかく就業を確保するのは最優先ではないか。しかし、いまの中国の労働法政策は、完全に「労働者地位についた労働者」ないし、「既得利益を抱える労働者」をしか守っていない。労働者すらなれない多くの中国人民は、「労働法」の保護対象から排除されている。辛うじて労働者になりかけた末端の安月給労働者も、「労働法」の恩恵にあずかることなく、ただひたすら汗水たらして現場で労しているだけである。

 一方、企業の中の一部の高給取り、資本主義諸国ではこのような所謂「管理職」たる人間は、労働法保護の範疇から排除されているのだが、この中国では、彼たちは立派な「労働者」として、いま、がんじがらめで自分の既得利益にしがみついているのである。いや、さらにそれを超えてとどまるところ知らず、限りなく貪欲を膨らませる輩は「労働法」を悪用し、企業から不当な利益を手に入れているのである。これについてはだれも咎めるものはいないし、咎めることもできずに企業はただただ無力を嘆いているだけである。

 中国は社会主義国家である。労働者階級が国家の主人公である。しかし、「労働法」は本当にこのような労働者階級のためにあって、彼たちに恩恵を与えているのだろうか。いささかその変質を感じずにいられないのは、私だけだろうか・・・

 今回の労働派遣規定は、ある意味で一つの折り返し地点になると、私は見ている。お盆休み中にもかかわらず、日系企業から多数の質問が寄せられている。早速、9月10日にセミナーを行う予定で準備を進めている。

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