体感温度の中国経済(1)~Overvalueの不動産相場

 経済指標の議論が続いてきたが、データを忘れて、私自身の体感温度で中国経済をざっくばらんに語りたい。

 一言でいうと、中国で多くの商品やサービス、その価格に相応なバリュー(価値)を全く感じられない、つまり、オーバーバリュー(Overvalue)というのは私の感覚である。

 筆頭に挙げられるのは、不動産であろう。上海市環状線内の億ション物件はまったく珍しくない。その価値はあるのだろうか。

 まず、不動産の最大なバリューはいうまでも土地の所有権である。限られた地球上の土地という稀有性に起源するバリューだ。しかし、周知の通り中国の場合、土地の所有権がなく、単なる使用権。しかも、いざその気になれば、国は何らかの法律を作ってその使用権を回収する、これもさほど難しいことではないだろう。

 私に言わせてみれば、大金、金利を払って一塊まりの減価償却するコンクリートや建材、設備を買うということだ。中国の一般住宅の実質的耐用年数は20~30年といわれているが、最近20年ももたない物件が続出している。

 たとえば、300万元で買ったマンション、それが長めの30年使用で平均償却していくと、年間10万元、毎月8000元以上。さらに銀行金利、機会損失(現金による他用ができなくなったため)を上乗せすると、軽く1万元を超える。逆にいうと、300万元で買ったマンションで月1万元以上の賃料を取れるか、それを検証すれば結論は自然に見えてくる。

 賃貸住宅についてどうであろうか。私が上海時代に住んでいた賃貸社宅は毎月2万元以上、ごく普通の外国人用の3LDKで、中国式の面積計算で200平米程度。いま、マレーシア・クアラルンプール郊外の閑静な住宅地で借りている家は、庭・プール付き・家具付きの一軒家。土地面積700平米、建物面積350平米。それが、上海のマンション社宅予算よりもさらに安く、釣りがやってくる。

 ビジネスなどの付帯要素もあるので、マレーシアと中国を直接に比較するつもりはないが、生活品質面で考える価値のギャップは歴然としている。

 最近、中国人の富裕層はどんどん海外物件に手を出し始めた。当地マレーシアはもちろんのこと、カナダ、オーストラリア、最近ロンドンの物件にものすごく人気が出たようだ。

 中国人もいよいよ、不動産バリューについて認識を変えつつある。海外不動産投資によっる資金流出、歯止めがかからない。

 一方、多大な財産、あるいは全財産投入プラス借金までして不動産を購入した一般的な中国人家庭にとって、不動産相場の下落は到底耐えられるものではない。彼たちにとってみれば、「不動産相場の上昇」は中国の経済成長に確約されたものであって、相場下落は一種の詐欺であって、資産の略奪に等しい。

 中産階級が社会の安定基盤というが、その安定基盤を揺るがす要素があるとすれば、中国ではまず不動産相場の下落と崩壊であろう。主要都市部の不動産相場、2割ほど落ちたときから、局部的に騒動や暴動が起きてもおかしくない。恐ろしきは、相場下落と販売不振の悪循環である。その前兆はすでに見えてきている。

<次回>