金で解決するなら、弁護士も要らない

 「律師(中国人弁護士)に言われてこうしました」
 「どうして、理由の説明がありましたか」
 「ありませんでした」
 「法的根拠は」
 「それも説明されませんでした。ただ、Bはダメで、Aをしなさいと言われました」

 先日、某日系企業のトップと私の対話。私は、セミナーでAのリスクを指摘し、法的根拠も示しながら、Bを推奨したところ、「我が社は弁護士の指導でBをやめて、Aでやっています」という企業の方がいたので、その対話になった。

 このような事例はもはや枚挙にいとまがない。何回も経験している。「○○したほうがいい」「××がダメ」という結論的なアドバイスを発する前に、その結論に導く論理的なプロセスの提示が皆無だ。弁護士である以上、法律の根拠というものは何よりも大切だが、これを飛び越えて裏付けなき結論を軽々と口にする輩が実に多い。

 日本人は医師や弁護士といった権威に弱い。弁護士から言われたことなら、疑いもなく実施する。複雑な法律が難解で、素人には理解できないかもしれないが、ただ結論に導く前工程である根拠や論証を確認するのは、そう難しいことではない。

 もちろん、権威性に便乗する弁護士は許されない。最近、弁護士の起草した法律文書を持ち込んで、セカンドオピニオンを求めてくる企業が増えてきた。中国人弁護士がよく犯すミスは以下である。

 (1) 思い込み、批判的思考を持たない。いわゆる常識的なもの、特にメディア等がプロパガンダ的に宣伝しているものを吟味、推敲することなく、そのまま結論としてしまう。

 (2) 非専門分野での誤魔化し。特に労働法を専門としない弁護士に多発する。法令解釈や判例の知識が少なく、そのうえ企業の経営、人事管理となるとお手上げ。にもかかわらず、誤魔化す。

 (3) 自己利益。労使紛争となれば、「従業員にお金を払った方がいい」と企業にアドバイスする。これも論証なき結論で、結果的に金で解決するのは法的リスクがほぼ皆無。責任やリスクを取りたがらない弁護士の逃げ道である。なんでも金で解決するのなら、弁護士も要らない。