道草の楽しみ(3)~ブイヤベースならぬポルトガル海鮮シチュー

<前回>

 マカオに来たら、ポルトガル料理を食べずに帰れない。今回選んだ一店は、官也街のはずれにある「アントニオ」(Antonio)。昼でも満席。14時の予約で13時30分になんとか入れた。

 以前コロアン島にある名門ポルトガル料理店「エスパソ・リスボア」のオーナーシェフをしていたアントニオ氏が出した新しい店である。マカオ政府などからも勲章をもらっている高級店として、重厚感に満ちた風格や貫録は確かに感じられる。

 本日のメインは、海鮮シチュー。メニューにはそう記載されているし、ウェイトレスもそう言っているが、実質的にはブイヤベースである。ただ本家の南仏プロヴァンス地方のブイヤベースなら、岩礁系魚のみの具材で4種類以上の使用、出汁を取る小魚もベラやカサゴなどと決められているが、このルールが厳格に守られていないだけに、ブイヤベースの名をあえて外したのではないかと思った。

 それともフレンチの真似などするものかというポルトガル人の意地なのか、「ブイヤベース風」という名称さえも敬遠されていたのだった。それはそれで、ポルトガル流の素朴さが全面的に打ち出された以上、まったく文句なしの、素晴らしい味であった。

 最後のデザート、ライスプリンも絶品だった。

 1999年にポルトガルを旅したときに食べた地場料理は生涯の思い出となり、以来マカオでその面影を追い続けてきた。肉体労働者の多いポルトガルでは料理は全般的に塩気が強い。だが、それが料理の風味を損なうことはまったくない。逆にその素朴さが引き立てられる。さらに、マカオのポルトガル料理はオリエンタルテイストも加わり、絶妙なハーモニーを織りなす。

 ご馳走様でした。

<終わり>