「ERISベトナム経営レポート」創刊のご挨拶

 ベトナムが熱い。殊に中国で長く仕事をしてきた人間にとって、冷え込む中国経済や撤退する外資企業を横目に余計にその鮮烈な冷熱コントラストを実感してしまいます。

 私が今年6月末にホーチミン市内で建設中のマンションを購入しました。まさに7月1日付の外国人による不動産購入を容認する改正住宅法の施行とほぼ同時でした。いまはホーチミンとハノイで2軒目ないし3軒目の不動産購入を画策しているところです。ベトナムのテイクオフを予感する。―長い中国体験に裏付けられているのです。

 21年前の1994年7月、私がロイター通信社の駐在員として上海へ赴任しました。その当時の上海をいまのベトナムで見ているような気がしてなりません。この20年が中国の黄金期だとすれば、あまり長いとは言えません。さらに、この20年をフルに活用し中国ビジネスで大成功した日本企業はどのくらいいるかというと、それも一部に限られています。

 私たち日本企業が外国で事業をやるということは、その国々で稼がせてもらうことです。その国々にとってみれば、資本の投入、技術の移転、雇用の創出、税収の貢献といったプラス要素と外国企業に持っていかれる利益というマイナス要素を常に天秤にかけて利害関係を吟味しなければなりません。そのことを私たちは決して忘れてはいけません。前者の魅力が薄れたとき、外国企業は熱烈歓迎の対象から外されることになります。外国企業はあくまでも外部者であり、お金はなるべく身内で稼ぎたいというのが常です。

 コストの上昇も著しい。昨今中国からベトナムへ日本などの外資製造業が大挙して移転する背景として、中国国内のコスト上昇が最大の要因であることは周知の通りです。ベトナムもこれからどんどんコストが上がります。中国からの産業移転が増えれば増えるほど、ベトナムのコスト上昇が早まります。それは市場の需要と供給の関係メカニズムから簡単に説明できます。

 だから何を言いたいかというと、ベトナムはこれから黄金期に入るでしょうが、その黄金期は永久に続くものでもなんでもありません。むしろ中国の軌跡を追い、10年や20年で成熟していきます。最終的に、ベトナムの地に根を下ろし、しっかりローカル市場を捉え、あるいは持続的な利益創出基盤を築き上げた企業以外は、また今度ベトナムの「NEXT」を探し求め、西へ西へと、キャラバンを成して大移動を始めなければならなくなります。

 キャラバン移動型であれば、まず次なる出発までにはしっかりと、しかも、急いで稼いでおく必要があります。無節操な言い方ですと、「稼ぎ逃げ」です。誤解のないように、「稼ぎ逃げ」は何も悪いことではありません。その時その場所で投資先国に貢献していれば素晴らしいことではないでしょうか。

 利益は呼吸のようなものです。人間は呼吸のために生きているわけではないが、呼吸ができなければ生きることそれ自体ができなくなります。利益は必ず必要です。利益を上げなければなりません。そして、ベトナムの地に根を下ろして市場に浸透したいと考える企業はもっと、もっと、並々ならぬサバイバル力が必要になってきます。

 企業経営に関していろんな問題があります。目先の問題解決も当然大切です。これと同時に、ベトナム事業の今後5年、10年という区切りで企業経営のあり方を熟考し、場当たり的な対症療法を超えた戦略やアプローチの確立を目指したい。この目標達成のために、私どもエリス・コンサルティングはすべての資源とノウハウを投入し、日系企業の経営陣とベトナムで共闘してまいりたいと考えます。

 中国で15年にわたり日系企業の経営・人事労務コンサルティング現場で積み上げてきたノウハウはそのまま中国という枠組みの中で完結させてはいけないと考え、ベトナム事業に踏み切り、今年2015年6月30日付でベトナム現地法人エリス・ベトナムを設立いたしました。

 新会社の設立、並びに在ベトナム日系企業向けの情報・コンサルティングサービスの開始とともに、このたび顧客企業向け定期レポート「ERISベトナム経営レポート」を創刊し、2015年12月1日付けで創刊第1号を配信いたします。刊行当初は月2回(原則1日・15日)の配信ですが、今後情報コンテンツの増加等情況の変更に応じ、週刊ベースに切り替えていきたいと考えています。

 本レポートは、ベトナムでの企業経営、殊に人事労務分野に焦点を当て、企業経営における構造的制度構築や運用から日常管理実務上の個別事例までカバーし、私どもの長年のコンサルティング実務から得られた知見などを取り上げ、「知」の共有と拡充を目指したいと願っております。

 編集スタッフ一同、質の高い経営情報レポートとして、皆様の信頼と期待に応えられるように努力してまいりますので、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

エリス・コンサルティング
ERIS Vietnam Co., Ltd.
代表 立花 聡
2015年11月吉日

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