積丹と小樽の旅(9)~「鍋壊し」初体験、炉端焼「かじか」の魚たち

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 足の怪我で学会報告と参加を断念。せっかく、発表を準備してきたのに残念で仕方ない。気分がひどく落ち込む。足の状況とにらめっこしながら、ホテルの部屋に閉じこもっていると、余計に虚しくなってくる。何のために小樽にやって来たのか。学会がダメになっても、せいぜい美味しいものをもう少し食べて帰らないと、悔いが残る。

 日曜の夕方、出血がずいぶん収まり、回復の兆しが見えてきた。美味しいものでも食べて元気をつけよう。そうだ。あの「鍋壊し」(かじか汁)が食べたい。実はかじか汁は家庭料理なだけに、一般の料理店ではあまり出されていないようだ。とは言っても、必ずどこかにあるはずだ。探そう!

 早速、ホテルのコンシェルジュに調べてもらうと、見つかった。数少ない候補店のなかでも、炉端焼「かじか」は、宿泊中のオーセントホテルから徒歩5分という至近距離。これは都合が良い。なんとか行けそうだ、足を引きずりながら。そして何よりも、電話をかけて、品切れなきようかじか汁がちゃんと確保されていることで念を押す。

 いざ出陣。まだじんじん痛む右足を引きずりながら、一歩一歩と目的地へ移動。これもまた路地の中にある小さな家族経営店。古い、暗い……。メニューの品数はそう多くないが、味はしっかりしている。小樽は素材の街なのか、どこへ行っても、刺身はまず外れがない。

 怪我治療中なので、いつもの冷酒ではなく、熱燗にする。なんと、熱燗も焼き台で加熱する。女将さんがいう。「うちは炉端焼屋だから、何でも焼きます。燗酒は『焼き燗』と呼びます」。なるほど、ユニークな焼き燗は香りがよろしいこと。お酒が入ると、痛みの感覚が薄れ、妙に気分が高ぶる。

 もちろん、焼き魚は欠かせない。あいにくも狙っていたかすべが品切れ。そのかわりに、「かまくら」という魚を勧められた。知らない魚だったが、旨い。2品目の魚はホッケ。羅臼産にしては小ぶりだが、身が厚い。一通り肉を食べ終えたところで、二度焼きしてもらい、皮や骨まですべてガツガツ食べてしまう。

 いよいよ、締めくくりには、あのかじか汁が出てくる。これは鍋のための魚といっても過言ではない。鮟鱇に負けないうまみだ。いや、鮟鱇以上かもしれない。根菜やジャガイモがたっぷり入っているから、素朴な庶民的な美味といえる。あまりの美味しさに箸がすすみ、鍋底をつついて壊してしまうという意味から、「鍋壊し」とも呼ばれているこの一品。よく納得した。

 ご馳走様でした。

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