香港デモ現地取材(1)~雨傘運動の足跡、香港人は「加油」から「反抗」へ

 デモ・騒乱が続く香港を一度この目で確認したくて香港行きの飛行機に乗り込んだ。10月19日、クアラルンプール早朝発のエアアジア便は、昼前の11時に香港国際空港に到着。空港ターミナルは人影まばら、いつもの2割以下という感じ。観光業への打撃はやはり深刻だ。

 ホテルは銅鑼湾(コーズウェイベイ)駅前のリーガル香港。

 メイン道路とビクトリアパークの一部を見下ろす部屋を確保。集会やデモの集合出発場所だけに、都合が良い。客室から望遠レンズを使わなくても、ある程度のバードビュー写真が撮れる(結局今回の大規模デモは、九龍側だった)。

 ちなみにホテルは激安。香港はとにかくホテル代が高い。銅鑼湾の一等地にあるリーガルはいつもなら1泊2000~3000香港ドルもするが、今回は半額以下。しかも部屋をアップグレートしてくれた。結論から言ってしまうと、香港の街はいたって安全。単純な観光目的なら、デモや集会情報を確認し、その時間とその場所さえ避ければ、何の問題もないし、むしろ観光客の少ない今がチャンスなのかもしれない。

 部屋に荷物を降ろしたら、すぐに出かける。向かうは九龍・旺角(モンコック)にある「六四記念館」。

 天安門事件の資料を展示するこの記念館は、2014年に別の場所でオープンしたが、ビルの管理組合の反対などで閉館に追い込まれていた。今年(2019年)4月26日、民主派団体「香港市民愛国民主運動支援連合会」(支連会)が旺角の雑居ビル内に開設(移転再開)。支連会幹部の何俊仁氏は「記念館の目的は、事件の真相を後世に伝え、歴史から学ぶこと。中国の民主活動家らを含め、正義を支持する全ての人々と共に行動したい」と述べた(2019年4月26日付け時事通信)。  

 記念館では毎週末にイベントが行われる。本日のイベントは、2014年にあった香港民主化デモ「雨傘運動」を描いたドキュメンタリー映画『傘上:遍地開花』の上映会とプロデューサー舒琪氏の講演会。「雨傘運動」から今日の香港民主化運動にいたるまでの経緯や背景、5年という時間の経過で何が変わったのかを知るには、絶好の機会であった。

 2時間にわたる長いドキュメンタリーは、「占中三子」(中環占拠活動の3人のリーダー、戴耀廷氏、陳健民氏と朱耀明氏)が普通選挙の権利を求めて組織した公民投票運動から始まり、中学生の授業ボイコット、最後に「928」(2014年9月28日、香港警察が平和的デモ隊に向け催涙ガスを噴射し、デモ隊が傘で身を守った日)の金鐘・政府本部と周辺地区の抗争現場の様子に至るまで、日記形式で記録したものである。

 民主化運動を主題としながらも、異なる政治的立場を有する反占中・親中派の動きや民主派との衝突から、民主派・抗争者陣営内部の対立や分断、そして迫ってくる警察を目前にして動揺する抗争者の表情まで複眼的に、冷徹な視線で捉えた。警察が高く掲げた「去れ!さもなければ発砲する」の警告幕の下で、「去るか残るか。みんな成人だ、自分で決めろ!」との絶叫、そして逃げ出してはまた引き返して残る人。恐怖に怯えながらも、歯を食いしばる人々の頬に光る汗と涙……。

 思わず何度も何度も、目頭が熱くなった。

 『傘上:遍地開花』というドキュメンタリー映画は、雨傘運動後の裁判に際し証拠物として提出され、法廷で上映された。香港司法史上極めて異例な出来事だった。これはむしろ1つの作品という芸術的次元をはるかに超え、史料として位置付けられるものであると考えたい。

 雨傘運動が終結して5年経過した。無力感が漂っているなか、香港人は葛藤や頓挫、分断に直面しながらも、ある種のエネルギーを蓄えてきたように思える。今回の「逃亡犯条例」はあくまでも引き金に過ぎない。ついに「覆面禁止法」の実施を境に、「香港人、加油(がんばれ)」というスローガンが「香港人、反抗」に変わった。

<次回>

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