バカ役人と賃上げ音痴労働組合の悲劇

 江蘇省J市K社の来社。

 集団労働契約の締結と賃金制度改正の打ち合わせ。当社が用意した集団契約案がJ市の労働局に却下され、J市労働局と総工会指定雛形の使用を求められたという。

 考えれば可笑しなことだ。労使双方が締結する契約は、なぜ第三者である行政や上層工会の指定様式を使わなければならないのか。いわく「なるべく使ったほうがいいよ」という行政指導らしきものだが、使わなければ認可しないということは、事実上の公権力行使による強制ではないか。結局、役人たちがこちらの用意するオリジナル版を審査するのが面倒くさいのもあれば、そもそも審査する能力を果たしてもっているのだろうかと疑ってしまう。

 このような形だけのもので、果たして労働者の権益が保障されるのだろうか。それよりも、政府が企業労働組合や従業員代表に、賃上げメカニズムの確保に躍起を呼びかけるが、労働組合や労働者側の実力不足でまったく交渉らしき交渉ができていないのだ。

 よその工場はあの賃金だから、うちも。あるいはとにかく、○○○元を上げろと根拠なき「八百屋式の交渉」に終始する。賃上げ交渉とは、高度な経営知識と交渉技能を必要とする。企業の利益上昇率に応じて昇給率を決めろといって、無理矢理企業の財務データを開示させる。

 非上場企業だから、開示しなくてもいいだろうといっても、ダメだとまったく法律が分かっていない。それはそれでよいが、労働組合の担当者にいざ財務情報を出そうと、BSやPLを突きつけても、読めるのだろうか。帳簿上利益が出ていても、ほら、キャッシュフローを見れば現金のないことが一目瞭然だろうなんていっても、はっ、それは何ですかと……。ポカーン。

 そもそも、この程度のレベルである。なのに、政府は無理矢理欧米流の労使交渉を真似ようとする。中国という国は、まだ就業率を最優先に考えなければならない。やたら賃上げ交渉やら解雇規制やらやっていたら、企業は撤退や雇用縮小に走るしかない。逆に企業はこの劇薬で、どんどん労働生産性を向上させれば、それはそれで大変立派なことだ。労働者側では、少数精鋭のエリートの賃金増で、絶対雇用数の低下につながれば、長期的に被害者は優良企業ではなく(もちろん生産性の低い企業の淘汰も進むだろう)、労働者であって、社会もそれで疲弊する。

 いまの中国の労働法制度や政策は極めて近視眼的なもので、いずれ失敗を喫するだろう。

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