ミャンマービジネス環境調査レポート(2013年1月ヒアリング要点まとめ)

 2013年1月、エリス・コンサルティング代表の立花聡は、1週間にわたりミャンマービジネス環境の視察調査を実施し、ヤンゴンで十数社の日本企業・その他外資企業を訪問し、現地で活躍される日本人や米国人、台湾人、帰国ミャンマー人などに対し延べ30時間近くのヒアリングを行った。

 本レポートは、調査の際に聞く事のできた先人たちの貴重なコメントを、いくつかのカテゴリに分けてまとめ直したものである。なお、本レポート中の数字などいかなる情報も、その正確性を保証するものではなく、参考情報としてミャンマービジネスの現状をイメージするのにお役立ていただきたい。

<ビジネス関連>

【人材】

 2011年労働法 5万8000チャットが最低賃金。ジュニア社員→100ドル、課長(英語可)→500ドル、部長(英語)→1000ドル。人件費は上昇傾向。インフレ5%前後。

 日本語人材は月給200~300ドル、賃金上昇は緩やか。5~6%のインフレ。ミャンマー事業の最大な問題は人的資源の問題だ。将来の事業の勝敗に関わる決定的なカギといっていいだろう。何よりも、トレーニングだ。素質の良い人材に、適正なトレーニングを持続的に加えれば、最高の人財になる。

 人材面では、ビジネススキルをもって、ビジネスレベルに到達しているミャンマー人が希少だ。人材の給料は350ドル程度。人材雇用の特徴は、賃金格差の大きさにある。代替可能な初級従業員と、ある程度ビジネススキルをもつ中核従業員の賃金格差は数倍に開く。人材の総量でいえば、6000万人の国民で外資企業として使えそうな人材ターゲットは10分の1で、せいぜい600万人だ。

 人材問題について、ミャンマー事業におけるキーパーソンは、ミャンマー人のほうが絶対にいい。地縁血縁的なつながりに頼らずに事業はできない。

 海外経験のあるミャンマー人は給与水準が高い。30代~40代の人材が特に欠けている。某日系企業で30年勤続のミャンマー人幹部は給与2000ドルを超えている。優秀な人材は賃金が高い。それでも極端に不足しているので、人材マーケットとして形成していない。優秀な人材は、ロイヤルティの高い人材組と転職選好組が分かれ、二極分化している。個人の価値観や企業インセンティブ制度にかかっている。

 日本国内でミャンマー人の人材を募集するなら、立命館APU(アジア・パシフィック)あたりにいるアジア人の優秀な人材が候補となりうるだろう。ミャンマー人のなか、日本留学など日本上がり組がいて、パワフルに動いている。使う価値が高い。

【外資】

 日本商工会は現在75社。進出企業では、中小企業が先行、手工業・軽工業が先行。電力問題もあってまだ手作業中心。自動車関連ならワイヤーハーネス先行。日本企業の進出は急増している。1年弱で、53社から74社に増えた。電子部品を使うメーカーの進出はだま先になるのではないか。その代わりに縫製業をはじめとするローテクが先行している。外国企業は、国内法適用か、外国投資法適用かのいずれか、後者には免税措置あり。投資法適用社はまだ少ない。

【ビジネス環境】

 一番困っているのは、対役場交渉。コネクション、人治国家、某有力者とのコネを作ってもその人が失脚すると一遍に崩壊、しかも嫌がらせ。だから、コネがなくてもやっていける仕組みを作らないといけなない。

 停電は改善中。ミャンマーのやり方はまず国民に電力を配り、産業は後回し。

 Golden Hill は現在200室満室、Waiting200件ほど。3DK、4DK、5DK は3000ドル、4000ドル、5000ドル。現地調査、間違った情報が多い、統計数字の信憑性問題が大きいミャンマーの優位性は明らかだ。インフラが完全にできていないが、改善されている。賃上げも緩やかに上がるだけで、短中期的、近い将来に急激なインフレによる物価・コスト上昇は考えにくい。

 相手欠席判決でも敗訴する。裁判官は被告と原告両方からカネをとる。ミャンマーの問題はまだ多い。まず、法律の問題をいうと、労働法含めて法の一貫性に欠ける。外資法も細則待ちで今一つ状況が見えていない。法の運用問題も大きい。中央政府と現地当局の運用にも一貫性があるとは思えない。

 消費市場でいえば、6000万人規模の国だが、広大な農村部・少数民族の山岳地区を除いて、当分ターゲットとなりえるのは、ヤンゴン周辺の600万人市場だ。人材問題、人事労務は空白。労働契約もない状態だ。

 物流や関税に関して、情報の食い違いがあって、信ぴょう性がとれない。弁護士でも人によって違うことを言う。

 会社設立①~ミャンマー人名義、資本金最低500万チャット、通常5億チャット(登記上の金額で、払込必要なしとのこと)、印紙130万チャット。会社設立②~100%外資、資本金通常5万ドル(初期資本金2500ドル払込、CPA手数料1500ドル、印紙1500ドル) MIC審査批准。

 Club Myanmarレンタルオフィス料金 住所のみ21,000円/月 デスクシェア31,000円/月~41,000円/月(スタッフ付) 個室(電話付)52,000円/月(個室は1人~2人のスペース、日本語スタッフシェア)

 ティラワ(※ティラワ経済特別区)について、2400ヘクタールの土地を造成するが、とりあえず第1期450ヘクタールの土地は2015年目途に完成する。ティラワは直実に進んでいる。2015年に一部稼働し、数千名の雇用が創出するだろう。

 ミャンマー株式市場の設立、大和証券が支援している。外資が使える会計事務所がまだ少ない。MPT(ミャンマー郵政)のEメールアカウントは問題多し。バンコク拠点がミャンマーをカバーする会社も多い。

【労務】

 ミャンマー人従業員はストレスをため込む傾向があり、ガス抜きが必要だ、たとえば水かけフェスティバル。ストライキは、製靴業や縫製業に見られる。「全勤労」が組織的に黒幕になっているのではないか。ストは散発的にあって、温和なものがほとんど。解雇は実質フリー、2~3か月分の給料を払えばよい。日本型終身雇用の適合性はあると思われる。心理的契約。退職金まで支給も検討すべき。会社に対する信頼が厚い。ミャンマー人従業員の定着率が相対的に高い。

【文化関連】

 ミャンマー人スタッフは、一言で言うと、真面目で、勤勉、そして、任せて安心。タイ人よりはるかに勤勉。教えていれば、ちゃんとこなしてくれる。上司が見ていないときもサボらずに仕事をこなす。自律性は凄い。ミャンマー人は、目上の人には決して逆らわない。言われたことをしっかりやる。ただ、欠点はクリエイティブ性に欠ける。トップダウンはOKだが、ボトムアップに問題多し。これも長期教育で解決する。

 東南アジアで一番ものを知らない人で、一番ものを知ろうとする人である。ミャンマー人(サービス業)は、グレードを知らない、高級品を知らない。だから、どのようなものがいいサービスかは知らない。ミャンマー人の民度は高い、清潔で真面目、45歳以上の人は英語できる人が多い。ミャンマー人は言われたことはちゃんとやる。服従する。

 ミャンマー人は、とにかく、日本人が好きで、中国人が嫌いだ。日本人もこの国がすき、相性というか、抜群だ。国民性以外に、自然や雰囲気がある意味で日本に似ている部分が多い。ミャンマー人は、素朴、素直で真面目だ。ただ、トレーニングは欠かせない。まだ何もない国だ。保険もないし、でも、国民は何も恐れていない。

 ミャンマー人は必ずしも金で動くわけではない。金よりも大切なもの、心の部分が動くと、パワーが全開になる。この辺はとても、日本人に似ていて、唯心的だ。われわれ白人から見れば、とてもアジア的で、文化的に複雑で理解不能なところもある。日本も同じ、文化的にかなり複雑だ。「ビルマの竪琴」という本を読んで、また映画も見て、つくづく感じた。

 ミャンマー人は民度が高い。まじめだ。その反面、自分で考えない、目上に対して意見を言わない、というような欠点がある。ミャンマー人従業員は勤勉で、自律性が高い。日本語のできない従業員が週末を利用して、自腹を切って日本語の勉強を始めたり、またパソコン操作のできない従業員はこれも、何も言われていないのに自分でパソコンスキルの勉強をして操作できるようになった。

 日本企業、日本人にとってミャンマーは居心地の良い国だ。ミャンマー人と日本人は国民性がよく似ている。地政学的にも日本が海洋国家で島国であるのに対し、ミャンマーは高い山脈に取り囲まれた陸上の孤立国家である。その分、いわゆる鎖国的な歴史もあって、ミャンマーと日本の国民性が似ていて、いわゆる「阿吽の呼吸」が存在する。次を読んで行動するというところはとにかく似ている。

 ミャンマー人はサボるという概念がない。とにかく真面目で、上司がいなくてもコツコツと働く人が多い。ミャンマー人の民度が高い。

【生活関連】

 ヤンゴン600人在留邦人→2013年中に1000人へ。メジャー紙: Weekly Eleven、Seven Day、Voice、ピーマン。外国人オーバーステイ1日3ドル罰金。

 安全な国、世界トップクラス。スリがいない。紛失、置き忘れの財布は戻ってくる。日本より安全。交通事故が怖い。救急医療が不備、交通事故遭遇の場合、Yangon General hospital(野戦病院のようなところ)に搬入される(法的理由、交通事故の処理の法的手続き)。だからタクシーは控えたい。ミャンマーでは、保険という考え方がまだ浸透していない。

【政治関連・その他】

 政治的には、国民にやはりスーチーの人気が高い。とにかく、好きだというファンが多い。外資企業としては、現状でも十分いい。逆にスーチーに政権を取ってほしいと思わない。国は確実に改善されている。ベトナム以上になる可能性は十分にある。

 腐敗が多いといわれているが、これも減少中。現在のテインセイン大統領は厳しく腐敗を取り締まり、公明正大な政治を提唱している。確実に状況は改善されている。政治的に大きな変革期にある。現在のテインセイン大統領の功績が大きい。奇妙なことに2年前まではテインセイン氏はそれほど知られていない人物だったのに、何というか、政治家よりも知識人で、ミャンマーが直面している状況を冷静に見て、問題解決に取り組もうとしているのだ。

 ミャンマーという国に、何が変わったかというと、ビジョンができたのだ。人間は全然変わっていないが、あることに大きな変化が見られた――。人生について、昔は人生プランを考えていなかった(考えても変わらないから)ミャンマー人は、自分の人生、家族のこと、将来のピクチャー、こういったものを考えるようになった。それは何を意味するかというと、人生を変えるチャンスが見えてきたからだ。

 弁護士事務所で働く若いミャンマー人は事務所をやめて宝石鑑識士になろうとし、宝石の貿易で金を稼ぎ、この弁護士事務所を将来買ってやると豪語する。大きな夢を持てるようになったのだ。

 ミャンマーの軍政といっても、民主化と経済改革は決して後戻りはしないと、断言できる。ミャンマー国民に対する情報開放が何よりもの証拠だ。3年前(2010年)まではミャンマーに世界の情報が入っていなかったが、いまはほぼ規制なしのインターネット開放がなされた。これが決定的だ。外部の世界への扉がいったん開けば、もう二度と閉めることはできなくなる。そういう意味でいうと、小国であるミャンマーが大国の中国に比べると、やりやすいという優位性は否めない。

 政治的には、2015年の総選挙が1つのマイルストーンになる。ミャンマーといえば、軍政対民主主義といった対極的な見方はダメ。軍政は国家統合のためにあった。また歴史軸で見ると、ミャンマーは紛れもない民主主義国家である。緩やかな連邦制がもっともこの国に合っているのではないか2015年の総選挙で、良くやってきたにもかかわらず敗北するUSDPは政権の座をスーチー氏のNDLへ明け渡すだろうが、肝心なのはスーチー氏が政権運営をうまくできるのか、これに尽きる。

 チャット高の問題だが、政府は1ドル1000チャットを目標にしているようだ。ミャンマーの政策目標は、国民が車を持てる社会に。ミャンマーの問題その1、多くの国民が自給自足に対する不満が薄く、経済発展への熱意が不足している。ミャンマーの問題その2、経済発展への抵抗勢力は軍ではなく、民族系中小企業の経営者たちだ。彼らは外資との競争を嫌っている。ミャンマーの問題その3、地縁血縁の関係が濃い。百の計が図られていない。国会議員の血縁制限なども。

 ミャンマー国内の腐敗問題について、政府上層部はほとんど腐敗なしと思っていい。問題は中級以下の役人で、悪意がなくとも、賄賂収受が習慣的になっている。

 ミャンマーは2015年にターニングポイントを迎え、大きく変わる可能性がある。人気者のスーチー氏が一旦当選しても、政権運営がうまくいかずに、日本の民主党のように引き下ろされ、USDPが再登場する可能性もある。ミャンマーの対外資開放について、国内財閥が抵抗、反対している。外国投資法もテインセイン大統領が財閥の反対を押し切って、最終決定で固めた。

 日本からの視察者がティラワなどの現場を見て、「まだまだだなあ」という人もいれば、即具体性のある話に進む人もいる。

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