未だにデータ移行してるの?パソコン買い替え後の一大仕事

 たまにマレーシア現地の日本語フリーペーパーを眺めていると、ITサポート業者の広告が目に留まった――「パソコン買い替え後のデータ移行方法はどうするの?」

 そういえば、昔はデータ移行でずいぶん苦労した。とにかく手間と時間がかかる。データ移行や各種アプリケーションの再インストールで6~8時間、長いときは丸1日かかるときもあった。素人は自分でできないので、IT専門業者に依頼する。その分お金もかかる。それは1人のプロが一日がかりで仕事するのだから、それなりにお金はかかるわけだ。

 その後、クラウドに移行したことで、抜本的に効率化ができた。もともとすべてのデータをクラウド上に保存されているので、PCの買い替えでデータ移行という概念すら存在せず、クラウドにアクセスするだけでまったく同じデータがまったく同じ形態になっているのだ。アプリに関しても、最近は動画編集ソフトなど一部を除いてほぼダウンロード版なので、PC買い替えに伴う再インストールの必要はない。

 要するにPCは、データをストックする倉庫からデータにアクセスするゲートウェイになったのだ。それによってITサポート業者はデータ移行の仕事の大半を失った。彼たちは仕事・収入を維持するためにも、少なくとも進んで顧客に「クラウド」を推奨しない傾向が見られる。この広告も現状を如実に物語っている。

 広告の文章を読むと、PCからPCへのデータ移行手順は丁寧に記載されている。正直、私のようなIT素人はまずお手上げだ。業者にとっては、仕事が複雑であればあるほど顧客が依頼してくるわけだから、マーケティングとしては正しいアプローチだ。広告はよく練って打つので、たぶんデータ移行は1つの有力なセールスポイントになっているのではないかと。

 日本人の弱点は、「Know-How」に熱中しても「Know-Why」に興味をあまり示さないことだ。この広告も例に漏れず「How」を詳しく述べていても、「なぜデータ移行が必要か」という「Why」にはまったく触れていない。

 私のこの記事を業者がみたら、おそらく「PC間のデータ移行のメリット」や「クラウドのデメリット」を挙げて反論してくるだろう。事物には異なる側面(メリットとデメリット)はある。大事なのは損得を天秤にかけて全体的評価する俯瞰力だ。それが情報に頼っている。

 スペシャリスト・専門業者とユーザー顧客の間に情報の非対称性(情報格差)が存在している。業者は商売の観点から、偏った情報(間違った情報ではない)を提供したり、情報を隠蔽したりすることも多々ある。これはすぐに善悪で価値判断するべきではない。中性的に事実認識として受け止めたところで、顧客側の自立性が生まれるのだ。

 成熟社会は、市民の自立性に依存している。その自立性は供給と需要の両サイドのレベルアップ、ひいては産業や社会の進化につながる。日本社会では「きめ細かいサービス」を善としたところで、一般市民の依存心が増大し、反比例に自立性が失われてしまった。

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