上海・北京線恐怖症の客室乗務員、流量管制は悪魔だ

 7月19日朝から天津で顧客打ち合わせ3時間、昼過ぎの列車で北京入りし、また打ち合わせ3時間、終了後はそのまま北京空港へ直行、夜便で上海に戻る。

 「遅延です」

 またかというよりも、いつものことで驚かない。私が予約していた、20時出発の上海虹橋行き東方航空5126便は遅延、機材到着時間も出発時間も未定だが、その代わりに19時05分出発の東方航空5130便は乗れる。ただ、到着は浦東空港、しかも、私が持っていたファーストクラスの格安券は搭乗便の変更ができないため、エコノミーに降格される。もうどうでもいい。浦東だろうと、エコノミーだろうと早く帰れたら何だっていい。

 19時になってようやく搭乗開始。せっかく早くなった5130便も遅延。搭乗後は、例の「地上機内食」が配布された。この半年に、これが5回目の「地上機内食」だ。

 食事こそ冷えているが、機内はどんどん暑くなる。1時間経過した時点で、蒸し風呂状態。エアコンはまったく効かない。まもなく機内は罵声に包まれる。途方に暮れた客室乗務員は、なんと非常口を全開し、「涼」を取り入れ始めた。開放された非常口から落下すると、きっと大怪我するだろうが、乗客も乗員も平気だ。

40662_2蒸し風呂の機内に、「涼」を取り入れる光景

 時間が経っても、離陸の気配がなく、抗議がエスカレートしていく。

 乗客A 「悪天候といっても、いまは雨も止んだし、なぜ飛べないの」
 乗務員 「流量管制もかかっております」
 乗客B 「何のための流量管制だよ。はっきりしろよ」
 乗務員 「それは分かりません」
 乗客C 「まったく誠意がないですね、適当に誤魔化しているんだろう」
 乗務員 「本当に分かりません」
 乗客D 「いい加減にしろ。いつも流量管制、流量管制、客を馬鹿にしてる。もう、我慢の限界だ・・・」

 雰囲気が険悪になってきた。私は、調停に乗り出した。

 「皆さん、落ち着いてください。彼女たち(乗務員)も私たちと同じ、早く家に帰りたいでしょう。でも、流量管制にかかっている。その原因は、彼女たちが知らないと言っています。それがうそか本当か、私たち乗客にそんなに重要なことでしょうか?たとえば、軍事演習だとか、要人専用機が通過するとか、それが流量管制の理由と分かったからといって、この飛行機はすぐに飛べるんでしょうか。結果は変わりませんよ。飛行機って、管制塔から許可を受けないと離陸できません。管制塔は離陸許可を出さない。その理由は何だろう。もしかしたら、管制塔の中にいる管制官も知らないのかもしれません。ただ、上層部や軍から指示を受けただけで、理由なんか聞けますか?もし、私たちがその管制官だったら軍に、『すみません、何の理由ですか、教えてくれ』といえますか。皆さん、結果は同じです。流量管制って、すべて航空会社の責任ではないと思います。航空会社は、飛行機が飛ばなければ札束を燃やしているも同然で、大損しているんです。わざわざ理由を作って飛行機を飛ばさない航空会社って、世の中にありえますか?よく考えましょうよ。皆さん。乗務員たちも大変です。しかも、私たちの苦情に耐えなきゃいけない。でしょう。だから、皆さん、少し我慢しましょうよ。きっと飛べますよ」

 騒動が一気に静まった。乗客たちは散って行った。

 「ありがとうございました。あなたの助けがなければ、大変なことになってました」。目をうるませながら私に頭を下げる乗務員。「同僚の子は先日、怒った乗客に殴られてしまいました。流量管制で。上海・北京線は恐怖です。正直言って飛びたくありません。内緒の話ですが、この数日流量管制はしばらく続きそうです。余裕を持ってお出かけください。流量管制って、いろんな理由があります。私たちは知っていても言えません。そう教育されています。ただ、たまたま飛行機に高官が乗り合わせたら、特別に早く離陸許可が出るケースもありますけどね・・・」

 なるほど、流量管制の正体が見えてきた・・・深夜23時15分、東方航空5130便は2時間以上遅れて浦東空港に着陸した。