ベトナム視察出張の目的

 「立花さんは、ベトナム進出ですか」

 複数の顧客企業や友人に聞かれた。国慶節連休の後半に、ベトナム視察出張を予定している。絶妙なタイミングで、尖閣事件で中国リスク論が再燃したところ、ベトナム視察というのは、このような印象を与えてしまってもしかたがない。

 ベトナム進出する予定はない。上海以外の中国でも業務拡張をしない主義の私にとって、ベトナムなどはありえない話だ。

 私の進出ではなく、顧客企業にベトナム・ソリューションを提示するための材料集めである。これまでも、在中日系企業の数年後のベトナム移転のために、企業戦略と制度構築の提案コンサルティングをしたことがある。

 以前にも書いたことがある。私は、コンサルタントであって、中国ビジネスコンサルタントではない。中国でのコンサルなら、とにかく顧客企業を中国に引っ張り込み、中国の中にとどまらせる。このようなことは決してしない。その企業にとっての最善は何かを考えるのが、コンサルタントの仕事だ。

 「移転」というのも一つのソリューションだが、すべてではない。中国にメイン工場を構えながら、ベトナムに第二工場、チェコに欧州物流センター、インドに開発センターなど多様な組み合わせをもって、「最善」のパターンを見つけていくわけだ。

 下記は、私の手帳に書き込まれたベトナム視察出張の調査テーマである(公開しても差し支えないので)。

<ベトナム視察課題>

 ① <全体像> ベトナムの全体的カントリーリスク評価(政治、政局、マクロ経済、法制度と運用、行政)
 ② <財務面> 上記に関連して、特に、法制度など法治インフラの不備及びベトナム独自の商習慣と文化による取引コストが企業経営上の原価に対する影響、企業レベルでは管理会計上の視点から見つめたポイント
 ③ <人事労務面> ベトナム労働法・労働現場の状況、人件費コスト、人員流動性、雇用・解雇コスト、日系企業や外資系企業における人材戦略と人事制度、労働紛争、集団労働争議(スト等)等の状況
 ④ <税務面> 設備投資、移転価格等税務面における突出した問題点
 ⑤ <生活面> 外国人の生活環境、特に医療、メンタルケア面の問題点
 ⑥ <日系企業の実務支援面>  今後在中日系企業のベトナムシフトに際しての実務支援、特に弊社顧客への支援斡旋調達も視野に入れたい。

 ベトナム出張の第二の目的は、ベトナム労働法制下の労働現場の調査であり、私の中国労働法博士論文の比較法の部分に使う材料の収集である。留学生の場合、自国法ベースの比較法研究が主流だが、中国の労働法制度は、日本よりも、中国と同じ新興国のベトナムと比較した方が学術的にも実務的にもより大きな意義があると判断したため、中越労働法比較を研究活動の一部として取り組んでいる。もちろん、ベトナム語がまったくできない私にとって、日本法よりもはるかに大きな挑戦になることは予想される。でも、やりたい。必ずやり遂げる!

 ベトナム出張の第三の目的は、2日ほどベトナムの海をぼ~っと眺め、つかの間の休息を取るためだ。