最低賃金の引き上げで企業は贅肉を落とせ

 北京は最低賃金を21%引き上げた。この半年で異例の2回目の引き上げだ。追随する他の地方も出てくるだろう。

 インフレが進み、労働者が生活苦を訴える。だから最低賃金を引き上げる。賃金だって物価の一種なのだから、賃上げもインフレを加速させる要素となる。最低賃金の引き上げは、政府の「作為」をアピールするには、絶好のツールだが、実効性がかなり疑わしい。

 最低賃金の引き上げは、労働市場メカニズムが伴わない限り、大部分の労働者を救済することができない。ほんの一握りの労働者が受益しても、失業率の上昇であっというま効果が吸収されてしまう。世の中、最低賃金の引き上げで豊かになった国は皆無だ。こんな簡単なことができたら、地球が理想郷になっていたはずだ。

 企業にとって、最低賃金の引き上げは良いことだ。えっ、何ということをいうんだろう。最低賃金の引き上げに速やかに反応する企業は、まず雇用計画の見直し、労働生産性の向上に取り組む。そう、雇用の絶対数を減らし、従業員一人当たりの生産性を高めれば、昇給の原資ができるわけだ。生産性の向上によって、企業が筋肉質の経営になっていく。パラドックス的(逆説的)だが、素晴らしいことだ。

 労働者にとっては、技能や生産性の向上は本人の労働付加価値増を意味し、それに伴う所得増になれば、これも素晴らしいことだ。

 社会的にみれば、労働市場による労働者の選択が進み、弱者が間違いなく不利な立場に陥る。社会の成長品質面では良いことだが、中国の場合、人口問題や労働者教育、労働者の平均レベル問題もあって、当面マイナス効果が現れるだろう。まず、大学新卒の就職は、「超・氷河期」に突入する。

 率直に言わせてもらうと、日系企業の多くは、労働生産性が低い。いまの在中日系企業でいうと、平均1割2割減員しても、まったく問題ない。「いや、これは出来ない」と一点張りの総経理もいるが、「給料を増やしてくれれば、減員してもがんばる」という現場との温度差が歴然としている。なぜなら、総経理よりも現場のほうが、「実質稼働率」を一番よく知っているのだ。「業務状況にはまだ余裕がある」「サボっているやつがいる」・・・現場の声を聞いてほしい。

 平均主義をやめよ!平均貧困社会が世の中にたくさんあっても、平均豊かな社会は皆無だ。社会も会社も同じだ。エンジン全開でたくさん稼ぎ、豊かな暮らしを手に入れたい中国人従業員がたくさんいる。日本では失われつつあるものだが、きわめて健全な幸福観ではないか。これを無視せずに、真剣に考えよう。

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