砂漠に落ちる一滴の水

 「一人の力は、砂漠に落ちる一滴の水ですが、みんなの力を合わせれば・・・私は、日本のみなさんとともにあります」

 4月13日、東京サントリーホールで行われたドミンゴのジャパン・ツアーで、世界のテノール、プラシド・ドミンゴはアンコールに応えて異例のスピーチとともに、日本語で「ふるさと」を歌いだす。満場総立ち状態で、多くの日本人は涙が止まらなかった。

 東北。日本人にとっての原風景であるふるさとが消え去り、このふるさとともに命を失った人たち、そしていまでも、避難所生活を送る人たち・・・。ドミンゴはこの時期だからこそ、コンサートをキャンセルすることなく、東京のステージに立った。

55205_24月16日、開演前のサントリーホール

 そして、4月16日、同じサントリーホールで行われた東京交響楽団の演奏会で、来日した世界トップのクラリネット奏者ポール・メイエも、「この大変なときだからこそ、立ち上がろう」と熱きメッセージを日本に送った。

 訪日だけでなく、大震災を受けた日本とともに、生涯の連帯を決心して、日本国籍の取得と日本永住を決めた外国人もいる――日本文学研究の第一人者で米コロンビア大名誉教授のドナルド・キーン氏(88歳)。

 日本を逃げ出す外国人、日本にエールを送る外国人。外国や外国人に対する日本の情報発信に確かに問題が多いだろう。日本人は自己主張が下手な民族である。あまり責めるべきではない。去る人は去ればよい。強引に引きとめてもしかたない。

55205_3節電中のホテルのバーで考える時間を

 中国の言葉でいえば、「錦に花を添えることはだれでもできるが、雪中に炭を送ることこそ難しいのだ」。こんな難しい時期でも、日本にエールを送る外国人がたくさんいる。日本人に多くの勇気と感動を与えている。いまだからこそ、いちばん必要なのは連帯だ。

 砂漠に落ちる一滴の水であり続けたい。一滴の水、一滴の水、砂漠にオアシスが出現する日は必ずやってくる。