美しいものは遠くから眺めていたら、いつまでも美しい

 先日、家族と相談したうえで、ある重大な決断をした――。定年後の日本帰国を完全断念した。南の暖かい国で暮らすことにした。そして、来月から早くも移住の法的手続きを始める。60歳まであと12年だが、余裕をもって心の準備、身の回りの準備に着手したいからだ。

 私は中国を永住の地として考えたこと一度もない。ビジネスの戦場であっても、静かに老後を過ごす地ではない。この土地には愛情が湧かない。「日中友好の橋」になれるような丈夫さも意志力もない。

 いままでは、日本に戻って暮らしたいという念を持ち続けてきたが、この2~3年で、絶望した。前にもブログで書いたが、現状を見る限り、日本は一度破たんしないと、良い方向に向かうことが難しいというか、不可能に近い。と、私はそう思っている。とても残念だ。日本が衰退するのが、人災だ。いろんな利益集団が自身の既得利益しか考えない。世の中は、守り抜くことはありえない。

 私は心から美しい日本を愛している。死ぬまで愛し続けたい。美しいものは、遠くから眺めていた方が、ずーっと美しいままでいてくれる。と、ある日、気がついた。何だか親を捨てて家出する子供のようで、切ないが・・・。

 今朝の「日経ビジネス」メール版に、日経ビジネス編集長山川龍雄氏が、このような「家出の子供」の心情を如実に描いて、代弁してくれた。以下転載させていただく。ちなみに、私の「移住日記」はコンサル業務の秘密もないので、今後、完全公開するつもりだ。

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 「日本の国債は9割以上が国内で消化されているから大丈夫」。ソブリンリスク(国家の信用危機)の話題になると、決まって出てくるこの論理。しかし、国内投資家はどれほど日本に対して忠義心があるのでしょう。

 今の財政状況は、親(国家)が子供(国民)に借金しているようなもの。親が他人(外国人投資家)から借金している欧州債務危機などとは次元が異なる。「日本は大丈夫」論を家族に例えれば、こんな理屈になるのでしょう。しかし、浪費を続ける親に、子供が愛想を尽かしたら、その前提は崩れます。

 夫婦喧嘩(与野党の政権争い)が絶えず、家計の見直し(財政赤字削減)は先送りされたまま。その間も借金は膨らむばかり。この状況を見ていたら、さすがに子供だって疑念を持ちます。「借金の取り立てに遭う前に、そろそろこの家を出た方がいいのかも」。

 そう考えて、行動に移す人が増えてきたことを、現地ルポを交えて詳報したのが今号の特集です。世界景気の変調や円高を受け、足元ではマネーに国内回帰の傾向が見られますが、これは一過性の動きでしょう。底流では、日本の将来に不信を抱く個人マネーが静かに国外逃避を始めています。

 日経ビジネスは決して読者の皆様に逃避を勧めているわけではありません。しかし、自己防衛のために、現実は知っておくべきでしょう。子供が逃げ出すほど借金体質の家庭に喜んでお金を貸す他人はいません。その時には今よりはるかに高い利息を求められ、家計はさらに火の車になっていきます。夫婦喧嘩をしている場合ではないと思うのですが。

(日経ビジネス編集長 山川 龍雄)
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