【世界経済評論IMPACT】高市早苗の給与削減――損して得取る、権力ゲームの美学

 高市首相は「身を切る改革」の見本として自らの給料を、月115万円カットした。彼女の収入、資産をベースに、政治的利益・派生経済的利益を加味したROI(投資対効果)評価をしてみたい。結論からいうと、給与削減方針は、金銭的に見れば損だが、政治的には極めて得になる「高リターン型の象徴投資」である。

 まず、現実的な損益から見ると、高市氏の年間所得はおよそ2,400万円前後。今回削減対象となるのは首相給与の上乗せ部分、月115万円で、年間にして約1,380万円の減額となる。つまり収入の半分以上を削る計算だ。経済的には明確なマイナスであり、私的消費や活動資金には一定の痛手となる。もっとも、高市氏の資産は少なくとも数千万円規模とみられ、生活に支障をきたすレベルではない(高市氏の収入・資産はAIの試算に基づく)。痛みは象徴的な範囲にとどまる。しかし、政治的効果は絶大だ。

 まず第一に、「身を切る改革」という維新の看板スローガンを自ら実践することで、連立政権の理念的一体感を演出できる。

 第二に、「清廉」「自らに厳しい政治家」というイメージを国民に強く印象づけ、ポピュリズム世論への訴求力を高める。

 第三に、既得権構造に依存する古い政治家たちに対し、自身を改革側に位置づけることで、党内の主導権争いにおける優位性を得る。

 そして第四に、単純な大衆心理への“視覚効果”が圧倒的に大きい。月115万円という金額は、平均的なサラリーマンの月収の約3倍にあたり、多くの国民にとって「非日常的な大金」である。この数字が削られるという事実そのものが、政策の中身を超えて「覚悟」「誠実さ」「格の違い」として直感的に伝わる。政治に無関心な層にも届く、最も強力なパフォーマンス効果だ。

 さらに長期的には、この決断が「清貧の改革者」というブランドを形成し、政治的資産として蓄積される。将来の党総裁選や再登板の際には、圧倒的な信頼と象徴性をもたらすだろう。

 給与の削減で失う1,000万円強の金銭よりも、ブランドとしての政治的リターンは数倍から十倍にも匹敵する。講演、出版、顧問職などの派生収入を考えれば、金銭的にも中長期では十分に回収可能だ。

 結論として、高市氏の給与削減は「財務的には赤字、政治的には超過利益」である。見た目には損をしているようでいて、実際には政治的信用・支持率・象徴資本という形で莫大な価値を獲得している。彼女が本当に「身を切る覚悟」を示したのは、財布ではなく、権力ゲームの舞台である。

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