遊牧民とロジャーズと私、マレーシア移住2周年雑感

 新居でマレーシア移住2周年の朝を迎えた。ヘイズが去り、久しぶりの青空から優しく降り注ぐ朝日の光芒を浴び、幸福なひと時を抱擁する。

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 2013年10月8日夕方、成田から日航機でクアラルンプールに降り立ち、その翌朝はまさにいまと同じような朝日を迎えた。あっという間に2年が経った。

 人間は地球上を移動して暮らしていくものだという根拠は、人間がもともと「遊牧遊農」系だったところにある。言ってみれば、獲物や作物がもっとも採れるところに人間が転々と移動しながら暮らすのだった。その遠い昔の時代に、「住む」よりも、「棲む」だった。物にありつこうと人間が移動する。

 それが貨幣が発明され、通商貿易が発達すると、状況が一変する。商流(カネの流れ)と物流(モノの流れ)に頼れば、人間は苦労して転々と移動する必要がなくなり、「定住」できるようになった。

 だんだんモノが溢れてくると、人間はカネにありつこうと、カネにくっ付いて動くようになる。仕事というカネを生む化け物が人間をコントロールし、仕事が集まるところに人間が集まりはじめる。私自身も日本で良い仕事が見つからなくなると、中国に移って仕事を作った一人だった。

 人間は、本当に住みたいところに住めるという幸福をいつになったら手に入れられるのだろう。カネがあれば実現できるだろうと思えば、米国人投資家・大富豪のジム・ロジャーズ氏は2007年シンガポールに移住した。

 さて、移住の目的は?氏は人間の移住史を引き出してこう語る。「1807年にロンドンに、1907年にニューヨークに移住することが賢明であったのと同じく、2007年にアジアに移住することは賢い」。ロジャーズ氏は21世紀がアジアの時代になると考え、本拠地を英語に加えて中国語も学べ、金融市場も発達し、かつ生活環境も一応悪くないシンガポールに定め、シンガポールに移住した。

 この地球上にシンガポールより素晴らしい住環境はいくらでもある。ロジャーズ氏の資産やパワーからいえば、地球上どんな場所でも彼が望めば住めないところはないだろう。そこで、シンガポールは果たして彼が本能的に一番住みたいところなのだろうか。答えは本人に聞かないと分からない。聞けても本人が本音を吐くかどうか分からない。

 ロジャーズ氏にとって、「カネ」の概念よりも「富」の概念であろう。彼の言行からすれば、彼のシンガポール移住は富にまったく関係ないとは言えるのだろうか。このクエスチョンマークをロジャーズ氏にでなく、私自身、そしてマレーシア移住を渇望している多くの日本人に投げつけたい――。

 マレーシアは果たして本当に住みたい場所なのか?