がんの話(1)~がんがなくなったら困る、がん産業の構図

 決してリゾートに似合わない一冊を、プーケット休暇中のビーチで読んだ――「患者よ、がんと闘うな」(近藤誠)

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 「早期発見・早期治療」「定期のがん検診」「積極治療」・・・。言ってみれば、がんと闘うこと全般が常識としても、善としても日本社会に定着してきた。この常識を根底から覆そうとする近藤医師の一冊が衝撃的だった。

 近藤氏の主張はまだまだ極少数派である。私は医師ではないので、医学的論証に加わる立場にない。少し異なる目線で医学・医療界のこの戦いを眺めてみようと思う。

 まず、がん検診・治療は、一大産業である。日本の巨大がん産業の規模はどのくらいであろうか。

 日本のがん医療費は現在4兆円規模とされているが(厚生労働省等の発表)、検診や研究、周辺関連産業を入れると、がん産業全体は10兆円規模に上るのではないかと。つまり、日本中に少なくとも十数万人の人ががん産業関係者で、がんという病気の存在で糧を得ているばかりでなく、一部の企業や人はがん産業で莫大な利益を手にしているのである。

 考えれば分かるように、がん検診やがん治療需要の減少は、この十数万人ないし数十万人の利権や利益を直撃する問題である。彼たちにとって、がんがなくなったら困るし、がん検診やがん治療需要の減少も困るのである。ある意味で中にがん・マフィアたる者も存在するだろう。

 そうした意味で、医学的根拠を別としても、「早期発見・早期治療」「定期のがん検診」「積極治療」はいずれも、がん産業の商品宣伝になる。「検診」と「治療」という2大商品自体が莫大な売り上げと利益を上げているだけでなく、その相互関係を見るとなお一層構図が鮮明になる――。

 「検診」でがんが発見されれば、「治療」につながる。もし全患者が検診でなく、自覚症状でがんが発見されれば、利益が急減するだろう。死に至らしめないがんを抱えて死亡した場合も、致命のがんで治療せず死亡した場合も、がん産業にとって多大な利益損失となる。

 「検診」を多くすればするほど、がんの発見機会が増え、「検診」とともに「治療」の売り上げと利益が倍々増加していくわけだ。これが、がん産業の基本的な利益構図である。さて、次回はがん産業と患者の利益相反点にフォーカスして考察していきたい。

<次回>