度肝を抜かれるホスピタリティ、中国式日本料理会食体験記

 寧波出張中に、某中国系企業の経営者に夜の会食へ招かれた。場所はいわく現地でもっとも流行っている日本料理店だというので、どんなところかといろいろ想像しながら、行ってみた。

 まず場所は派手。リバービューの夜景を一望する個室のなかでも、ビューをもっとも楽しめる席をわざわざ用意してくれた。日本料理店だから、ビジュアル的な要素を考えなくてもいいのに。むしろ隠れ家的な店とか、そうした感覚的な差はやはり大きい。中国語で「場面(チャンメン)」という見栄えは接待に欠かせない要素だ。それは何料理だろうと関係ない。

 次に料理。これも中華料理宴会式に一遍にどーんと出てくる。円卓いっぱいの料理をよくみると、そこに刺身だったり、天ぷらだったり、和牛の鉄板焼きだったりして紛れもない日本料理だが、その出し方は正真正銘の中華式である。これも見栄え。ちびちびつまみながら、ちびちび酒を飲むのは中国に似合わない。

 言うと、料理の味は悪くない。ただ面白いことに、大皿の刺身盛り合わせは、その半分以上を占めているのがサーモン。やはりこれは真理。中国人にとっての「永遠の刺身」は何といってもサーモンしか考えられないのだ。かといって、何とししゃもといういかにも日本的な1品も顔を出しているのではないか。ただ焼き物なのに、なぜか前菜として供されている。なるほど、これも中華料理的な感覚であろう。

 料理を丁寧に取り分けてくれるのも中華式。刺身を取り皿でなく、醤油皿にどーんと取り分けてくれる。しかも、知らないうちに山葵も醤油に溶かしてくれたのだった。度肝を抜かれるホスピタリティである。

 アルコール類は、フランス産の上等な赤ワインがケースで用意されていた。しかも、デカンティング付き。個人的にはこの献立にどうしてもワインというなら、やはり白でしかもドライなシャルドネあたりではないかと思うけれど。まあ、でも赤ワインも美味しい。

 ただ、飲むたびに「カンペイ(乾杯)」と席の全員とグラスを合わせるという儀式は欠かせない。私は習慣的に自分のグラスをつかんで勝手に飲もうとすると、ホストや周りの人が慌てて立ち上がって「来来来(ライライライ)、乾乾乾(カンカンカン)」とグラス合わせと一気飲みを求めてくることは何回もあった。きっと、私は礼儀知らずと思われていたに違いない。

 しばらくすると、盃を交わすタイミングには一定のサイクルがあることに気付いた。勝手に飲むよりも、このサイクルに合わせて飲むとスムーズにいく。中国式酒席での阿吽の呼吸といってよかろうか。

 主食の時間になると、「ご飯か、麺か」というのではなく、なんと、お粥が出てくる。非日常的な日本料理を締めくくるには、胃袋を優しく癒す中華粥の効用は絶大。これも美味しい粥だった。

 いやいや、楽しい会食の時間だった。いろいろ勉強になった。ご馳走様でした。