【時事解読】G7初イタリアと中国の「一帯一路」締約、その先はどうなるか?

 習近平主席が21日からイタリアやフランスなどヨーロッパ3か国を訪問する。イタリアでは、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」に関して、主要7か国(G7)で初めて覚書が交わされる見通しだ。

 イタリアの中国「一帯一路」への参加は、論理的な国策研究に基づかず、おそらく国内の事情や特定の利益集団が絡んだうえでの結論ありきの意思決定だったのだろう。

 イタリアと中国の貿易といえば、歴史が長い。ベネチアの商人で旅行家のマルコ・ポーロが13世紀に執筆した「東方見聞録」は当時の様子を伝え、シルクロードを通じた両国間の繊維貿易は何世紀も栄えた。その歴史を再演させるには、現代版シルクロードがあっても良さそうだが、現実はそんなロマンチック物語に程遠い。

 ポピュリストが政権を握ったイタリアの総選挙から1年が経過しても、経済は暗黒のままになっている。前年の景気後退が今年に入っても長引く見通しになっており、欧州委員会はポピュリスト政権の政策を繰り返し批判し、域内他地域に影響を及ぼす恐れがあると警告している。2桁台の失業率と山積状態の債務、改善される様子はなく、イタリア経済は今年ほぼゼロ付近の成長率にとどまる見通しだ。

 そうした窮状のなか、お金持ちとされる中国にしがみつくよりほかない。しかし、EUの一員としてイタリアの独自行動はやはりまずい。EUというグループで中国と交渉すれば、全員が受け入れられるような、より良い条件を引き出せるはずだが、現にイタリアの1か国が独自に先走ってしまった。これによってEUに亀裂が入るし、米国も不快だろう。

 それにもかかわらず、「一帯一路」の合意でイタリアに利益をもたらすのなら、とりあえず悪い話ではない。それが可能だろうか。そもそも中国の「一帯一路」を受け入れていま、繁栄を謳歌している国はどこだろうか・・・。

 中国自体の経済が悪化している。今年年ベースの経常収支は赤字に転じるとの予測も出ている。都市部に出稼ぎにやってきた農民工の大量帰郷がすでに始まっている。工場の閉鎖や外資の撤退、現場のワーカーにとどまらず、ホワイトカラーもリストラの荒波にさらされている(参照:【時事解読】就職超氷河期突入、中国のホワイトカラーにリストラの嵐)。中国には「一帯一路」を展開し、イタリアに助け舟を出す余力があるのか、甚だ疑問である。

 対米貿易交渉が行き詰まっているなか、欧州歴訪でイタリアとの合意締結は習近平主席にとって輝かしい外交実績になるだけに、何が何でもそれが必要だ。しかし、イタリアとの合意はどこまで維持されるのかを考える余裕すらないだろう。マレーシアのナジブ前政権との取引きの焼き直しに近い。次期選挙でひっくり返せば、180度の大転換になる可能性もある。むしろ、この対中取引は、野党がイタリア現政権を攻撃する材料にさえなり得る。各国でこの「民主主義の流動性」に何回やられても、中国は教訓にできないようだ。

 イタリア語の諺がある――。「Non è tutto oro quel che luccica」。輝くもの必ずしも金ならず。見かけに騙されるなというが、中国は金であろうか。

 余談になるが、欧州でも、イタリアを含むいわゆる南欧系の「怠け者」グループが中国の餌に飛びつく傾向があるようだ。「働け働け」と圧力をかけるEUや米国は逆にこのグループに嫌われる。「楽して稼ぎたい」という意味で、中国と南欧と一部の東南アジア諸国は同類だ。しかし、世の中はそう甘くないぞ。

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