中国の大学新卒はなぜダメなのか?!

 久しぶりに、MBAの母校・中欧国際工商学院(China Europe International Business School)のキャンパスを訪れた。「人的資源シンポジウム」に出席するためだった。同校の肖知興副教授(人的資源)は、「大学生の就職難」と題した講演を行った。以下、一部抜粋して紹介する――。

 「大学生の就職は難しい。多くの企業は、大学生の新卒は要らないと。なぜだろうか?大学生は、ブルーカラーに対する代替要素として考えると、ブルーカラーのバリューが断然高いからだ。中国のブルーカラーは、熟練技能工(いわゆる「グレーカラー」)が少ないものの、平均的にいえばかなり質が高い。手先が器用で、指示された作業をこなし、企業のために確実に富を創り出している」

 「しかし、大学生はなぜダメだろうか。問題の解決力はとにかく低い、低すぎる。企業の実務には対応できない。致命傷だ。中国の大学生は、方程式を解くことができても、方程式を作ることができない。考え方も幼稚で、社交性も優れていない」

 「ホンダのストライキ、富士康の連続自殺事件、北京現代のストライキ、ブルーカラーが抗議すると、6割も賃金が上がった。大学を出た新人が企業に賃上げ交渉してみたらどうなるか。給料が安いというのだったら、辞めたらどうだと企業に一蹴(いっしゅう)される。いくらでも候補軍がいる。しかし、農民工、ブルーカラーは違う。なかなか、沿岸部で見つからないのだ。だから、企業は賃金をどんどん上げるしかないだろう」

 大学の新卒は年間600万人超、6割の内定率で就職氷河期に直面し、初任給はせいぜい3000元程度。一方、沿岸部の農民工は不足しており、ストライキさえやれば企業が賃金を引き上げ、2000元や3000元の月給はいずれ当たり前になる。

 2~3年内に、農民工と大卒の賃金逆転があってもおかしくない。すると、大学では学生が集まらなくなる。大学は生き残りを賭けて必死になる。いまは、大学も人材斡旋会社も、とにかく人材を綺麗に包装して企業に送り込もうとする。その後は知らないと。大学も人材斡旋会社も、商品(人材)のアフターサービスをしないのだ。それよりも、どんどん新商品を売り込み、どんどん次のお金を稼ごうとする。

 中国は、誰のお蔭で豊かになったのか。農民工である。改革開放30年、加工や輸出業でコツコツと日夜一生懸命に働いてきたのはほかでなく、農民工なのであった。農民工の利益がずっと犠牲にされ、中国のGDPは成長した。もし、「血汗工場」というのなら、その最終的結果として、「血汗GDP」ではないだろうか。血だらけでなくても、GDPには血や汗が滲んでいるだろう。その代わりに、農民工の給料は安すぎた。

 ストライキという手段はともかく、農民工、ブルーカラーの賃上げには、私は大賛成だ。もちろん、前提がある。それは企業利益の確保と成長だ。でなければ、企業は利益を食いつぶされて倒産するし、外資なら中国を逃げ出し、失業がどんどん増え、最悪な状況に中国は陥る。産業構造の改革(中国語で、「産業昇級」という)である。労働集約型からの脱皮はまったなしだ。中国政府も気付いているし、数年前からずっと呼びかけてきた。しかし、うまく行っていない。問題はどこにあるのか。労働集約型産業から知識集約型産業へのシフトには、大量な人材が必要だ。けれど、本来その主力となるべき人材がとにかく不足しているし、人材の空洞化が生じている。

 農民工と大卒の賃金逆転は、まさにその表れである。産業構造のシフトは、難産している。いまのグローバル社会では、高付加価値を生み出すために、労働集約型から知識集約型へのシフトだけでなく、さらに、インテリジェンス集約型へのシフトが求められている。しかし、中国は道半ばどころか、前進が止まっているようにも見える。

 大学新卒者には、もっともっと賃金を引き上げたい。けれど、条件がある。優秀でなければならない。ここで間違いのないように、優秀な学生ではなく、優秀な企業人でなければならない。

 現場工員にも、もっともっと賃金を引き上げたい。けれど、これも条件がある。渡り鳥では技術もノウハウも蓄積されない。定着して、猛勉強して、熟練技能工になり、やがてスペシャリストにならなければならない。

 従業員の賃金をなるべく低い水準に抑えたい企業は、決して成長できない。特に中国でこう考えている日系企業の経営者はいまだに存在する。このような企業は必ず衰退する。

 産業構造の改革。前途多難、まったく楽観できない。国の政策と制度、労働者の意識と価値観、企業の文化、経営方針と管理制度、学校の教育のあり方など、多方面に絡んでいる。そこで歩調を合わせるのが至難の業だろうし、既得利益の問題も障害になるだろう。でも、やらなければならない。

 産業構造の改革が失敗すれば、中国社会は動乱に陥り、中国経済は間違いなく行き詰まるだろう。今後の5年は勝負だ。私はこう予言する。

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