中国の某和僑会から、講演の依頼を受けた。テーマはやはり、「起業」や「経営」「成功」といった内容で、対象者は日本を飛び出した若い経営者や経営候補者の方々である。
この手の講演は実に多いこと。それに対する世間の評価も賛否両論。成功体験談を強く期待する人もいれば、成功する人は成功系セミナーをそもそも聞かないで独自に努力して成功しているよという人もいる。
それぞれの論には確かにそれぞれの理がある。否定論を取り上げてみると、海外で企業を興して一応商売も成り立ち、いわゆる成功者の部類に分類され、そこで講壇に立けば延々と自分の苦労話やサクセスストーリーを述べ、ある意味で自己満足の成分も内包される。いや講演者が意図的にそうしたのではなく、この手の話になると、自然にこういう形になるのではないだろうか。
自分がいざこのような講演を引き受けた以上、いろいろ考えなければならない。特に否定論を強く意識してしまう。この手の話は果たして聴講者にどれだけ役に立つのか。ボランティア講演だから、どうでもいいというわけではない。聴講者がわざわざ時間を割いて会場まで足を運び、会費徴収されるかどうか分からないが、半日くらいの時間をかけただけでも機会損失コストがかかっている。講演者としてただ自慢話だけでなく、何か形に残るものを差し上げたいと、そう考えている。
ということで、早速主催者に問い合わせを入れてみた。どのような方々が来られるのか、どうこうものを期待しているのか、一番大切なことに、終極目標としての「成功」についてどのようなイメージを持っているのか、要は「成功」とは何かだ。定義付けをまず講演者と聴講者が共有する必要があるのである。
「成功」とは何か。これはやはり、「物心」の両面から語る必要があるだろうから、当初与えられた1時間半の講演時間ではとても話としてまとまらないので、2時間半~3時間を要求した。なんとか良い講演にしたい。3年後や5年後、できれば10年後、聴講者の方が世界のどこにおられるか分からないが、私の話の10文字くらい頭の中に残って、ああ役に立ったなぁと、思ってくれたら講演は大成功だ。
だから、通常の企業法務や人事労務、経営系のセミナーよりもはるかに緊張する。