この1枚のマップから、時代が読める。
2020年米大統領選における代表的な激戦州フロリダ。バイデン民主党に投じられた票は、マイアミ、オーランド、タンパ、ジャクソンビル、タラハシーという大都市圏に集中している。その他広大な農村地帯の票はトランプに投じられていた。
<ソース>Politico
他の州をみても、ほぼ同様の傾向がみられる。これは何を意味するかというと、単純にいえば、都市部に住むいわゆるエリート層、時代の「勝ち組」と工業地帯や農村部に住む低収入層、ブルーカラー、「負け組」の分断、あるいは、グローバル化の勝者と敗者の分断を示唆するものだ。
さらに政治に目を向けると、本来ならば社会下層・底辺を代表していたはずの民主党が、すでに立場が逆転し、既得権益者・エスタブリッシュメントになったのである。
孤立したブルーの都市部を取り囲む広大な赤の農村部。米国の地図を眺めていると、不思議にも、あることを思い出す。中国共産党はかつて「農村から都市を包囲する」戦略で革命を成功させ、政権を奪取したことだ。いまの米国がそれにぴったりと重なって見える。
マルクスの階級闘争の理論は間違っていない。支配者階級と労働者階級の対立はいまでも、外見的に若干異なるように見えても、本質はそのままになっている。
米国も日本も中流階級(サラリーマン階級)の溶解がどんどん進んでいる。問題はここからだ。下層や底辺への転落がすでに始まっていたのに、その根本的な原因を大方が理解していないのだ。グローバル化は一種の蚕食的搾取であることを理解できていない。自分たちはかつて勝ち組に属していたかのように見えても、その虚像はすでにフィードアウトしようとしているのだ。
この溶解段階におかれているほとんどの中流階級は日々、苛立ちを覚え、トランプのような「性格が悪そうな」政治家を目の当たりにして、怒りをぶつけたくなるものだ。バイデンに投じられた票は、「トランプ嫌い」から来ているというが、その意思決定は政策や実績を語る理性でなく、当事者自身の情緒的な感性にのみ根差したのである。
社会主義・共産主義は、大衆のルサンチマンと憎悪感情を煽り、階級闘争を暴力にエスカレートさせる。しかしながら、民主主義の進化は独裁をも暴力をも去勢してしまい、紳士的な女々しさを洗練された美としたのである。これを逆利用してしまうのが社会主義者だ。
孤立したブルーの都市部で、本当にグローバル化で多大な利益を手にしているのは、権力の中枢となるほんの一握りの特権階層にすぎない。似非勝ち組の大多数はいずれ赤グループに転落する。
中流階級の溶解・消滅によって社会が極度の不安定に陥り、革命が起きる。これを防止するために、支配者階級には、今までになかった優れた武器がある。それはIT、ビッグデータにほかならない。今回の米大統領選にもすでに露呈したが、大手SNSの言論統制である。
国民一人ひとりの言論や思想を統制するだけでなく、その傾向をAIが読み取り、個人の行動を予測する。あらゆる反抗が芽生えた時点で押し潰される。中国共産党がかつて底辺の労働者や農民の蜂起・暴動を組織したことも、「農村から都市を包囲する」ことも、二度と起こり得ない。
下層や底辺に墜ちた人々は、永遠の奴隷となる。その子々孫々もだ。たとえ今の富裕層であっても、その財産が一瞬にして取り上げられる。下手をすれば、命がない。利用するだけ利用して、あとは切り捨てる。これが共産主義者の常識である。