スリランカ日記(2)~デュシタニの高級タイ料理

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 デュシタニ・バンコク内の「ベンジャロン(Benjarong)」は、店名の通り、タイ伝統の高級磁器ベンジャロン焼きの豪華な器で料理が供され、中庭を流れる美しい滝を眺めながら優雅に食事する高級タイ料理店だ。

31573_2デュシタニ・バンコク内の高級タイ料理店「ベンジャロン」

 私にとって、一番美味しいタイ料理はあくまでも街の食堂や屋台で出されているダイナミックで、ワイルドな食べ物だ。外国人だろうと観光客だろうと関係なく、容赦のない激辛に仕上げる、あの庶民のタイ料理である。エアコンもない中、顔を真っ赤にして食べ続けると、とうとう涙ポロポロの無残な姿になって、屋台のご主人にくすくす笑われる、このような光景はもっともタイらしくて、楽しいのである。

 しかし、40代になると、いよいよ気力を失いつつ、食堂の衛生状況やら色々と考えるようになった。また、経営者として、体は自分一人のものではない。顧客のものでもあり、従業員のものでもあり、そして家族のものでもある故に、無謀なことはできない。すると、リスクと距離を置くようになったのである。

31573_3トム・ヤム・クン(260バーツ=約720円)
31573b_3ロブスターのグリル(550バーツ=約1540円)

 ここ、「ベンジャロン」はまさにタイ料理をもっとも安全、快適、そして優雅に食す場所である。本日の献立は以下の通りである。

 ● トム・ヤム・クン
 ● レッドテラピアのから揚げガーリックペッパー炒め
 ● 淡水ロブスターのグリル、魚から揚げ入り赤唐辛子ペースト添え
 ● モーニンググローリー(空芯菜)のオイスターソース炒め
 ● タイ米のライス

 トム・ヤム・クンは、マイルド過ぎるくらい上品な味だ。「ホット・スパイシーにしてくれ」と頼んだのに、パワーが足りない。宮廷料理と銘打つこの店は、汗だらだらして食べる料理を出すわけにはいかないのだろう。といえば納得するが、ベンジャロン焼きの豪華な器に盛り付けられた、生ぬるい上品なトム・ヤム・クンはやっぱり物足りない。

31573_4レッドテラピアのから揚げガーリックペッパー炒め(420バーツ=約1180円)

 そして、テラピアという魚料理。テラピア(Tilapia)とはスズキ目の魚である。日本にもあるが、あまり知られていないようだ。元々高級魚ではなく、終戦後の食糧危機をしのぐためにタンパク源として注目された魚であった。流通名は「イズミダイ」、又は「チカダイ」と呼ばれ、養殖されている。味や食感が鯛に似ているが、外観はクロダイにそっくり。タイにこのテラピアが入ったのは、実は日本と大変深い関係があった。発端は、皇太子明仁親王(当時)がタイ国王にテラピアを50尾贈り、テラピアの養殖を提案したことにあった。タイ政府はそれを受け、タイでは広くテラピアが食されるようになったそうだ。このエピソードにちなみ、タイでは華僑により「仁魚」という漢字名がつけられたという。

 高級魚だろうと大衆魚だろうと、しょせん人間が決め付けたものだ。香ばしく揚げられたテラピアの身は引き締まっており、また、ガーリックペッパーによって風味がいっそう引き立てられ、最高の美味だった。

 明日からは、スリランカでカレー三昧の予定なので、今日のところ、タイカレーは止めておいた。

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