スリランカ日記(4)~専用車運転手付の「大名旅行」と物価事情

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 今回はコロンボ到着が深夜だったため、移動を控えて、空港の近くにあるタージ系のエアポート・ガーデンホテルに泊まり、翌朝運転手に迎えに来てもらうことで、手配しておいた。

 12月28日朝8時、スリランカ人の運転手がホテルのロビーで待機していた。「私は、ピアンテと申します。これから6日間のご旅行にお供させていただきます。どうぞよろしくお願いします」と、満面の笑顔でスリランカ訛りの流暢な英語で挨拶してきた。

31611_2スリランカ旅行中、運転手のピアンテさんと

 スリランカの観光は、周遊型と滞在型(主にビーチリゾート)に大別される。今回は、初めての国なので、周遊型を選び、紅茶、植民地時代の古い街並み、そしてカレーという三大テーマを絞り込んだ。北海道の8割ほどしかないスリランカの国土には、何と7件の世界遺産(文化遺産6件、自然遺産1件)も登録されている。今回は時間の関係で、「聖地キャンディ」と「ゴール旧市街・要塞群」(ともに1988年登録)の2件だけ回ることにした。

 狭い国土とはいえ、高速道路がまったくなく、移動に時間がかかる。公共交通機関の状況も決して良いわけではない。効率面、安全面を考えて今回のスリランカ旅行は、運転手付の車をチャーターすることにした。

 運転手付きの車チャーター、日本流でいうと、ハイヤーである。日本なら1日あたり8万円や10万円もかかる高価なものだが、ここスリランカでは、トヨタのカローラクラスなら1日6000円や7000円程度で利用でき、日本のレンタカーと同じ相場である。要は運転手の人件費が異常に安いからである。

 東南アジア旅行の醍醐味の一つは、物価の安さで殿様気分を味わうことだ。ここスリランカは物価が非常に安く、大名旅行に最適だ。

 上記の通り、1日6000円や7000円程度で運転手付のハイヤーを使えるが、では、旅途中運転手の宿泊代や食費、手当は別途加算されるのではないかと、私が心配していた。実はスリランカに面白いシステムがある。通常、観光客が泊まるホテルは、車の無料駐車だけでなく、運転手には無料の食事と宿泊まで親切に提供してくれるのだ。食事は朝夕の2食、宿泊は運転手控え室が設けられ、同じような観光客の運転手が共同で使用できるわけだ。それから、観光客が使うレストランも大抵運転手に食事を無料で提供している。

 何らかの事情で、上記無料サービスが提供されない場合、その分の宿泊代・食費は、ハイヤー利用者が負担しなければならない。実際、今回は年末にあたり、一部のホテルから宿舎や食事が提供されなかった。後から、別途で運転手から請求されたが、その金額は、1泊2食で1200スリランカ・ルピー(約960円)という日本人から見れば考えられないほど格安のプライスだった。

31611_3いかにも、スリランカ的な風景

 では、1200ルピーで果たして運転手はちゃんとした宿に泊まって食事することはできるのかと。心配はご無用。実は1200ルピーで釣りがやってくるほど、スリランカ人料金がさらに安いのである。

 昔の中国のように、スリランカには、外国人とスリランカ人の二重料金が存在する。しかも、その格差が驚くほど大きい。たとえば、植物園の入場料なら、外国人は600ルピー(約480円)だが、スリランカ人なら30ルピー(約24円)。ざっと20倍の格差。

 旅行中のある晩、私と妻があるローカルレストランに入って、焼き飯とビールと紅茶を注文した。合計500ルピーほど(約400円)の勘定で、ああ、安かったなあと感心した。しかし、あることにふと私が気付いた――。レストランの布製のテーブルクロスに被るごわごわとした硬めのビニールカバーだが、私たちのテープルだけ、外されたのだった。安いレストランでよく見られるそのビニールカバーは、汚れ防止、後片付けを簡単にできるように被らせたものだ。だが、私たちのテーブルだけ、カバーが外され、布のテーブルクロスの上で食事するという特別待遇を与えられた。それは、外国人の私たちが高い外国人料金を払っている上で与えられた特別待遇なのだ。その格差は、後で調べて分かったのだが、20~30倍という目玉が飛び出るほどのものだった。一人200円のディナーは、安いと思ったら、現地のスリランカ人は何と10円で食べていたのだった。

31611_4スリランカ・ルピー札、1000ルピーは新旧札混在

 10円とは、人民元に換算すると、0.7元、つまり7角だ。中国で7角でレストランでご飯を食べられたのは、恐らく1970年代のことではないか。

 それから、外国人観光客が買い物すれば、マージンも運転手に回る。1週間の旅、観光客が10万円を使って、その5%をマージンとすれば、5000円のお金が運転手の収入になる。さて、スリランカの大卒の初任給はいくらかというと、5000ルピー(約4000円)~1万5000ルピー(約1万2000円)だ。1か月に3週間運転手が働けば大卒の平均初任給よりも良い収入を得ることになる。

 「あなたの子どもは、大学に行かせますか」という私の質問に、「ノー」と運転手のピアンテさんがはっきりと答えた。

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