スリランカ日記(9)~紅茶談義その二、大国の「搾取」

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 英国に起源するアフタヌーンティーやハイティーは、ある種の文化に昇華し、高い付加価値を創出している。リッツ・ロンドンのアフタヌーンティーのセットは、シャンパンも追加されると8000円を超える高価で売られている。しかも、数週間前に予約を入れないと、席が取れないという。

31745_2ヌワラ・エリヤ~茶畑風景

 アフタヌーンティーの主役である紅茶の多くは、セイロン紅茶である。しかし、その原産地であるスリランカでは、紅茶は信じられないような安値で取引されている。

 ヌワラ・エリヤのティー工場直販店で観光客向けに売られている紅茶は、平均5グラム当たり(ティーポット1杯分)3円、上級のプレミアム茶でも7~8円程度だ。もちろん、卸となれば、更に安くなるだろう。恐らく2円~5円程度ではないか。しかし、それが日本国内に輸入すると、50円~100円(5グラム当たり)と20倍の値が付く(楽天市場データ)。さらにロンドンや東京の一流ホテルのカフェで出すと200~300倍に相場が跳ね上がる。

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31745b_3ヌワラ・エリヤ~桃源郷のような風景

 スリランカにおける紅茶の生産は、英国の植民地時代にさかのぼる。セイロン島と呼ばれていた植民地時代のスリランカでは、もともとコーヒーの栽培が盛んだった。ところが1870年代の終り頃、害虫の大発生によりコーヒー木が壊滅的な被害を受けた。その頃英国の紅茶生産技術者たちは、インドでの紅茶生産に成功を収めていた。もともと紅茶は中国で生産されていたが、自国の植民地で生産した方が経済的に有利と判断した英国は、インドでの紅茶生産を成功させると、「大英帝国紅茶」の生産を拡大すべく、茶園をセイロン島にまで広げた。害虫発生で閉鎖されたコーヒー農園の跡地に紅茶の木が植えられ、拡張に拡張を重ねた結果、大規模なプランテーションが次々拓かれた。紅茶産業の繁栄に伴い、労働力の需要も増えた。植民地支配者たちはインド南部から多くのタミール人を労働力としてセイロン島に連れて来たのだが、それは後の世に悲惨な民族紛争をスリランカにもたらした。

 「コロンボには、イギリス人が大勢住んでいます。彼らはほとんど紅茶貿易商社の仕入れ担当です。彼らは定期的にヌワラ・エリヤに足を運んでいます。ここで、安く仕入れた紅茶をイギリスに送り込んで、英国のブランドを貼り付けるだけで、世界のあちこちで何十倍の高値で売って大儲けしています。しかし、スリランカ人はいつまでも貧しいのです」。運転手のピアンテさんがつぶやく。

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 英国がスリランカを搾取しているのだろうか。先進国が強大なブランド力でものを言わせ、途上国の資源を安く仕入れ、また低賃金の労働力を利用し、搾取していると憤慨する人も多いだろう。果たしてこれは、「搾取」なのか。経済法則から見れば、正当な取引であって、スリランカも自ら付加価値を付ければ、英国同様厚い利益を手に入れることができるはずだ。しかし、現実はそう簡単ではない。

 中国もどこかスリランカと共通する部分がある。安い労働力が諸外国に利用される一方、低付加価値の産業構造から脱出できずに苦しんでいる。お茶という商品を見ても、中国には、雲南省や福建省など銘茶の産地が多数ある。しかし、お茶はあくまでも商品としてのお茶にとどまって取引されている。英国のアフタヌーンティーのように、一種の文化として世界に売り込めれば、もっともっと高い利益が手に入るだろう。

「Made in Sri Lanka」で、「Made by England」のセイロン紅茶を、産地で見つめながら、思いを馳せた。

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